外国籍の方が、日本でエンジニアとして働くためには就労ビザの取得が必須です。
ビザの取得には「在留資格」が必要となり、特にエンジニアの場合は「技術・人文知識・国際業務ビザ」と「高度専門職ビザ」の2種類が主な選択肢となります。
本記事では各ビザの特徴や申請手続き、必要書類、そして長期的なキャリアプランまで、外国籍エンジニアのための実践的な情報を解説します。
※下記の記事のは英語版になります。(Read this article in English, please click bottom↓)
- エンジニア向け就労ビザの種類と、申請要件や特徴の違いについて
- 在留資格認定証明書の取得から就労ビザ申請までの手続きの流れと準備書類について
- 高度専門職ビザ取得のためのポイント制の仕組みと、高得点のための詳細について
1.エンジニア向け日本の就労ビザの基本

日本でエンジニアとして働くためには「就労ビザ」が必要となります。一般的に就労ビザは日本国内での就労が認められる「在留資格」として用いられることがあります。
しかし正式には形式的な在留資格などを取得した後に、在留資格認定証明書を提出することで得られるビザのことを指します。
就労ビザを取得するには、在留資格を取得することが基本となり、その種類は非常に多岐にわたります。そのなかからエンジニアに関連したものを解説していきます。
参考:外務省:就労ビザ
エンジニアに関連する在留資格の種類
日本国内において外国人が就労可能な職種は、在留資格によって決まっています。
エンジニアや通訳など、専門的な知識やスキルを必要とする職種が一般的ですが、高度専門職や特定技能といった、優秀な外国人を対象とした新たな在留資格も存在します。
一方例外として、永住者や日本人の配偶者、定住者など、日本での活動に制限がない在留資格を持つ場合や、留学の資格で週28時間以内のアルバイトをする場合には職種は問われません。
外国人が日本で働くためには、自分の職種に合った在留資格を取得することが重要です。
エンジニアとしての在留資格には、以下のような「技術・人文知識・国際業務ビザ」と「高度専門職ビザ」があります。
技術・人文知識・国際業務ビザの概要
国内で就労するための一般的な在留資格により発給されるものです。日本の大学や企業で研究や開発、マネジメントなど、高度な専門知識やスキルを活かして働きたい外国人向けとなります。
人文科学、理科系、外国文化など、さまざまな分野の専門家を対象としたビザで、日本社会の国際化を促進するために設けられ、取得には一定の学歴や経験が求められます。
高度専門職ビザの基本要件
高度専門職ビザは日本の経済発展に貢献できる、高度な専門知識やスキルを持つ外国人招へいのために設けられたものです。
学歴、職歴、年収などの要素を評価するポイント制で審査され、一定の点数以上を獲得することで取得できます。
高度専門職には、活動内容や優遇措置が異なる1号と2号があり、2号は「1号」ないし「特定活動」での在留資格によって3年以上活動していたことを前提に取得できるものです。
この資格を取得した高度外国人材は、日本においてより長く安定的に活動でき、企業も人材確保の面で大きなメリットを得られます。
エンジニアに適した在留資格の選び方
就労ビザは在留資格に対して発給されます。選択する際には、それぞれの特徴と取得条件を理解する必要があります。
「技術・人文知識・国際業務」をエンジニアが取得するには…「技術」の要件を満たす必要があります。ただし情報処理技術に関する資格などを所持している場合には、学歴・職歴の要件が緩和される場合もあります。
「高度専門職」では…エンジニアが初めて申請する場合だと1号を取得することが可能です。この際には、ポイント制において70点以上の得点が必要です。
申請に必要な基礎要件の確認方法
就労ビザに関する疑問・質問があれば、各国の日本大使館や領事館へ問い合わせるようにしましょう。
在留資格申請の種類や申請に必要な基礎要件については、「出入国在留管理庁」のWebサイト参照すると良いでしょう。
問い合わせは「地方出入国在留管理官署」や外国人在留総合インフォメーションセンターが便利です。
2.在留資格申請の具体的な準備ステップ

就労ビザ申請に欠かせない在留資格の取得申請について解説します。
在留資格申請は基本的に本人がおこないます。ただし書類の準備などに関しては、就職予定の企業との連携、ときには専門家の手助けも必要となる場合があります。
申請は本人が居住する予定地、あるいは勤務する予定の企業の所在地を管轄する地方出入国在留管理庁に対しておこないます。
必要書類の準備と確認方法
申請に必要となる書類は在留資格によって異なりますが、主な共通書類は以下の通りです。
- 在留資格認定証明書交付申請書
- 本人写真(4cm×3cm)
- 返信用封筒1通
- 就職先企業の資料や雇用契約書など、「日本での活動内容に応じた資料」
そのほかに履歴書や学歴・職歴を証明する書類の提出が必要な場合もあります。
就労予定企業との準備物の確認
在留資格の申請には、就職予定の企業との連携が大切です。特に必要書類の1つである「日本での活動内容に応じた資料」では、企業の登記事項証明書や案内パンフレット、雇用契約書など、企業側に用意してもらう資料が多くなります。
事前に就労予定企業と話し合い、準備をしておく必要があります。
申請から取得までのタイムライン
在留資格認定証明書交付申請から日本に入国するまでの期間は審査期間だけでなく、書類の準備や郵送にかかる期間も含めて考慮する必要があります。
出入国在留管理庁によると、2024年における「技術・人文知識・国際業務」の在留資格認定証明書交付申請の平均審査期間は約2~3か月ですが、書類の準備や郵送期間などを含めると実際にはさらに時間がかかることも予想されます。
特に年度の初めは申請が集中し、時間がかかる傾向があります。そのため日本への渡航を計画する際は、余裕をもったスケジュールを立てることが大切です。
具体的な申請費用の内訳
在留資格認定証明書交付申請の手数料は、新たに申請する「在留資格認定証明書交付」の場合、無料です。
「在留期間更新許可」「在留資格変更許可」の場合には4,000円がかかります(改定される場合あり)。このほかに、写真撮影代や返信郵送代がかかります。
■合わせて読みたい
以下の記事では、日本就労ビザの取得について、詳しく解説しています。
3.エンジニアのための高度人材ポイント制を理解する

高度専門職には日本においてより長く安定的に活動できるメリットがあります。
ただし、取得するには高度人材ポイント制により、70点以上のポイント取得が必要です。以下ではポイントの概要を解説します。
IT技術者のポイント計算ガイド
高度人材ポイント制は、高度な専門知識やスキルを持つ外国人(高度外国人材)を受け入れるために設けられた評価制度です。
高度学術研究活動、高度専門・技術活動、高度経営・管理活動の3つの分野に分類し、学歴、職歴、年収、年齢などを基にポイントを付与します。
一定のポイント以上を獲得すると、永住許可申請の要件緩和など、さまざまな優遇措置を受けることができる仕組みです。
この制度により、高度な能力を持つ外国人は優先的に日本国内での就労ができます。一方、国内企業としても外国人を客観的に評価し、戦略的に受け入れることが可能になりました。
高得点を得るためのポイント配分
具体的なポイント配分について
- 学歴:博士号30点・修士号20点
- 職歴:実務経験に応じて5点~25点
- 年収:400万円~1,000万円の間で、100万円ごとに5点刻みで10点~40点
- 年齢:29歳まで15点、34歳まで10点、39歳まで5点
- 研究実績:特許の取得、論文の数などがポイント加算対象
このほか日本の大学を卒業している、日本語能力試験でN1を取得しているなどの場合もポイント加算の対象となります。
参考:法務省:ポイント計算表
必要な証明書類と準備の仕方
エンジニアが高度専門職1号を取得するためには、以下の書類が必要です。
- 在留資格認定証明書交付申請書
- 写真
- 返信用封筒
- 職種に応じた資料
- ポイント計算表
- ポイントが70点以上あることを示す資料 など
これらの書類の準備は、就労予定企業、卒業した大学などに申請する場合もあるので確認しておきましょう。
上記の準備に加えて在留資格認定証明書の交付後は、日本大使館や総領事館で入国に要する査証の申請をおこなう必要があります。
具体的な優遇措置の内容
エンジニアが高度専門職1号を取得すると、複数の活動が認められて最長5年の在留期間が与えられるなど、多岐にわたる優遇措置が受けられます。
優遇措置の例
研究活動と並行して事業を経営できる
永住許可の要件が緩和される
入国・在留手続きが優先される
(ポイントが80点以上の場合)1年間の在留で永住許可申請が可能
しかるべき要件を満たせば配偶者の就労も認められる場合があります。
また本人や配偶者が妊娠しているなど、一定の要件を満たすことで親や家事をする人の帯同も許可されます。
4.ビザ申請時の重要なチェックポイント

就労ビザを申請する際には、在留資格認定証明書をはじめとする関連書類について以下のようなチェックポイントを意識しつつ確認していきましょう。
在留資格認定証明書の取得手続き
就労ビザの申請で最も重要なのは、在留資格認定証明書です。この証明書があれば、就労ビザ申請がスムーズに進む可能性は高まります。
ただし、在留資格が認められるには、前述のようにさまざまな手続きをおこなう必要があります。
また就労ビザは在留資格に対応したものになります。例えば資格が「技術・人文知識・国際業務」であれば、同じ資格に対応したビザしか申請できないので、注意しましょう。
実際の審査期間と進捗確認
在留資格認定証明書には有効期間があります。原則として3か月間、この期限をすぎると無効となり再度申請が必要になります。
そのため、海外から日本に入国する場合には、入国する時期から逆算をして証明書を取得し、就労ビザ申請をおこなう必要があります。
ビザの審査期間自体は通常で1週間程度ですが、資格を取得する準備なども考慮すれば3か月程度は必要となるでしょう。準備などの進捗状況を確認しながら余裕をもって申請してください。
追加書類が求められた場合の対応
在留資格認定証明書の申請においては、提出された書類に対して「資料提出通知書」が送られてくることがあります。
この通知書に記載された内容に漏れなく、期限内に対応することが許可を得るためには非常に重要です。
期限を守れなかったり質問に回答しなかったりすると、申請が不許可になる可能性があります。もし、期限内に資料をそろえられない場合は、事前に入国管理局に連絡し、事情を説明することで、猶予が得られる場合もあります。
5.エンジニアの長期キャリアプランニング

日本で長期的な就労を目指す場合にはビザの更新や永住権の検討をするほか、家族の帯同やキャリアアップに伴う資格変更などの要素も考慮する必要があるでしょう。
ビザの更新手続きと注意点
日本での代表的な在留資格である、技術・人文知識・国際業務や高度専門職では、滞在を延長するために在留期間を更新する手続きが必要となります。
ただし、更新されるには以下のような条件に合致していなければならないためあらかじめ詳細を確認しておきましょう。
- 資格要件に適合していること
- 上陸基準に適合していること
- 素行不良でないこと
- 納税をしていること など
永住権取得に向けた準備
永住権を取得すれば、在留期限や就労制限がなくなるため、エンジニア以外の職業に就くことも可能になります。
しかしハードルは高く、技術・人文知識・国際業務の場合在留が10年以上、在留資格での就労が5年以上、年収が5年連続で一定額(目安は300万円)以上あることなどの条件が必要です。将来を見据えて準備をしておかなければなりません。
家族帯同の具体的な手続き
技術・人文知識・国際業務では「家族滞在」の在留資格に基づいて配偶者と子供を帯同できます。また高度専門職では加えての条件がありますが、「特定活動」の在留資格に基づいて親の帯同も認められます。
具体的な手続きとしては、帯同しようとする本人が管轄の出入国在留管理局へ申請する形です。審査期間は1か月~3か月程度で、在留資格確認書が交付されたら、家族の元へ送り日本大使館にてビザをもらい入国します。
参考:出入国在留管理庁:在留資格「家族滞在」 在留資格「特定活動」
キャリアアップに伴う資格変更
技術・人文知識・国際業務の資格で就労をしている場合でも、要件を満たせば高度専門職に変更ができます。この資格変更では、日本において長く安定的に活動できるメリットがあります。
6.就労ビザ申請でよくある課題と具体的な解決方法

ここからは就労ビザ申請において、どのような課題があるのかについて解説します。
学歴要件を満たすための方法
就労ビザに必要な在留資格では、学歴や職歴、資格によってその能力を証明する必要があります。例えば、「技術・人文知識・国際業務」のビザでは多くの場合、理系学部卒業が求められます。
審査は書類ベースでおこなわれるため、卒業証明書などの準備が不可欠です。在留資格取得で学歴要件を満たすには、学歴を証明できる書類が必ず求められるので、不備がないようにそろえておかなければなりません。
職歴証明の効果的な取得方法
申請には企業からの内定が必須です。内定は、申請者のスキルと業務内容が一致していることを証明するもので、例えばITエンジニアが「技術・人文知識・国際業務」のビザを申請する際には、ITエンジニアとしての内定が必要になります。
また雇用の安定性を示すため、原則として1年以上の契約期間が求められます。契約社員や派遣社員でも、適切な雇用契約があれば審査を通過する可能性があります。必ず就労予定企業に相談の上書類を取得しましょう。
経済証明への具体的な対応
申請では滞在中の経済基盤についても審査があります。そのため、給与水準や貯金などの証明を求められる場合があります。
就職予定企業から交付された雇用契約書などのコピーを用意しておくこと、銀行残高証明書を発行しておくことなどの対応が必要となります。
日本語能力に関する要件対策
申請では業務内容によって日本語能力が求められる場合があります。
特に「翻訳通訳」や、エンジニアであっても日本人とのコミュニケーションが頻繁な業務では、日本語能力検定などの資格で能力を証明することが望ましいでしょう。
日本語を必要としない業務であれば、日本語能力は審査の対象外となります。
7.ビザ申請成功のための最終チェックリスト

就労ビザを取得するためには、在留資格が非常に重要となります。在留資格認定証明書がなければ就労ビザの取得は現実的ではありません。
ビザ申請成功には在留資格の取得が欠かせないので、重点的にチェックする必要があります。
提出書類の最終チェックポイント
在留資格申請書類を提出する際には、必ず最終チェックをおこなってください。確実に必要となるものは以下の「日本での活動内容に応じた資料」です。
□在留資格認定証明書交付申請書
□本人写真
□返信用封筒
□就労先企業の資料や雇用契約書 など
この他の書類を提出するケースもあるため、就職予定の企業や提出先の地方出入国在留管理官署に確認しておくようにしましょう。
よくある不備と具体的な対策
資格申請でのよくある不備は、「誰が」「どこで」「どのような業務をするか」という3つの要素を満たしていないことです。これらの要素は同等に重要で、ひとつでも欠けると不許可となる可能性があります。
各要素には詳細な要件があり、特に「法令順守」は厳格に審査されます。申請では、これらの要件を満たしていることを証明するだけでなくしっかりと書類上でアピールすることが重要です。
専門家に相談すべきケース
在留資格の申請では、依頼をすれば行政書士などの専門家が代行してくれます。自分がどの職種で申請の要件を満たしているのか曖昧なときには、相談を検討してみましょう。
また家族の帯同にあたっての手続きがわかりにくい場合、追加書類が求められた場合なども、専門家への依頼で手続きがスムーズに進むケースが多くみられます。
8.計画と準備を万全にして日本でのビザ取得を目指す

日本での就労ビザ取得は、慎重な準備と計画が必要な重要なプロセスです。
特にエンジニアの場合、技術・人文知識・国際業務ビザと高度専門職ビザの選択肢があり、自身のキャリアプランに合わせた適切な判断が求められます。
必要書類の準備から申請手続き、さらには将来の永住権取得まで、長期的な視点を持って計画的に進めることが成功への鍵となります。