日本で働くIT人材にとって、適切なビザの取得は重要な課題です。
一口にエンジニアビザと言っても、「技術・人文知識・国際業務」や「高度専門職」など、複数の種類が存在します。
それぞれのビザには固有の特徴や要件があり、自身のキャリアプランに合わせて選択する必要があります。
この記事ではIT人材向けの就労ビザについて、種類や申請方法、永住権取得までのプロセスをくわしく解説します。
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- IT人材が取得できる就労ビザの種類と、具体的な違いについて
- ビザ取得に必要な学歴・職歴要件と、高度専門職ビザにおけるポイント制の仕組みについて
- 在留期間の更新から永住権取得までのステップと必要な準備について
1.IT人材に関連する日本の就労ビザの種類と特徴

IT人材としての活躍を目指す外国人が日本で働くうえでは、ビザの取得が必要です。
IT人材に関連する日本の就労ビザのひとつに、エンジニア職として働くための在留資格である「エンジニアビザ」があります。
これは正式名称ではなく、エンジニアとして働ける在留資格全般を指しています。
以下では、IT人材に関連する日本の就労ビザの種類やその特徴を解説します。
日本のビザ制度の基本構造
日本のビザ制度は複雑で、就労ビザは実に20種類近くも存在しています。
日本に初めて働きに来る外国人や留学生が雇用されるにあたって取得する就労ビザは、「技術・人文知識・国際業務(技人国)」「技能実習」「特定技能」の3つが中心です。
IT人材が取得可能な在留資格の全体像
エンジニアビザとして一般的なビザは、「技術・人文知識・国際業務」です。
このビザは、就労系在留資格のひとつで、大学などを卒業した者が、それぞれの専攻分野を生かした仕事に就く場合に必要となるものです。
数多くある就労系の在留資格の中でも、特に多くの外国人に利用されています。エンジニアビザは、この中の「技術」に該当します。
またこのほかに取得できるビザとして、「高度専門職」ビザが挙げられます。
これは日本の経済発展への貢献を目的として、高度な専門知識やスキルを有する人材を海外から呼び寄せるための在留資格に基づくものです。
このビザは1号と2号に分かれますが、日本で初めて就労する方は1号ビザとなります。
参考:出入国在留管理庁:在留資格「技術・人文知識・国際業務」 出入国在留管理庁:高度人材ポイント制
就労可能な活動範囲
IT企業に就職すれば、誰でもエンジニアビザが認められるというわけではありません。業務内容は「ITエンジニア」、「技術者」である必要があります。
仮に就職先がシステムを開発しているような会社であっても、仕事内容が「事務」であれば、エンジニアビザは認められません。
参考:出入国在留管理庁:「技術・人文知識・国際業務」在留資格の明確化
■合わせて読みたい
以下の記事では、日本就労ビザの取得について、詳しく解説しています。
2.技術・人文知識・国際業務ビザと高度専門職ビザの違い

日本でのビザを取得予定で、技術・人文知識・国際業務ビザと高度専門職ビザのどちらを取得しようか悩んでいる方もいるかもしれません。
以下では、技術・人文知識・国際業務ビザと高度専門職ビザの違いについて解説します。
それぞれのビザの基本的な違い
技術・人文知識・国際業務ビザと高度専門職ビザには、在留期間、申請要件、活動できる範囲に違いがあります。
在留期間については、技術・人文知識・国際業務ビザだと5年、3年、1年、3か月のいずれかです。一方、高度専門職ビザ(1号)では、5年と定められています。
申請要件の比較
技術・人文知識・国際業務ビザの場合、海外の短期大学士以上の学位か、日本の専門士以上の学位を保有していることが要件となります。
ただしこの学歴要件を満たさない場合でも、10年以上の実務経験があれば申請は可能です。
また日本人が同じ仕事をする場合に得られる報酬と同等以上の額の報酬を受けるという報酬要件も存在します。
日本語能力要件はありませんが、活動内容によってはN2以上を必要とされることもあります(通訳者など)。
一方、高度専門職ビザは、ポイント制であることが特徴です。高度専門職ポイント計算表を参照し、70点以上であれば申請が可能になります。
学歴や職歴、年収、年齢などによってポイント加算があります。日本語能力要件は技術・人文知識・国際業務ビザと同様にありません。なお有資格者であればポイントが加算される場合もあります。
認められる活動範囲の違い
■技術・人文知識・国際業務ビザの在留資格に該当する活動
- 理学、工学などの自然科学の分野
- 法律学や経済学、社会学といった人文科学の分野に属する技術や知識が必要な業務
- 外国の文化に基盤を有する思考または感受性が必要な業務に従事する活動
職業例…機械工学等の技術者、デザイナー、通訳 など
高度専門職ビザ(1号)の活動範囲は、基本的に技術・人文知識・国際業務ビザと同じです。
しかし、国際業務は活動範囲に含まれません。そのほか、高度専門職ビザを取得すれば、活動範囲に関連する事業の経営が可能となります。
3.IT人材の在留資格における学歴・職歴要件とポイント制の活用

混同されることも多い技術・人文知識・国際業務ビザと高度専門職ビザ(1号)の違いについて、ここまで解説しました。
以下ではIT人材の在留資格における学歴・職歴の要件とポイント制の活用について、よりくわしく取り上げます。
学歴要件の詳細
エンジニアビザとして一般的な「技術・人文知識・国際業務」における在留資格を得るためには、以下の要件のどちらかを満たす学歴が求められます。
- 自然科学または人文科学分野に属する技術あるいは知識に関連する科目を専攻し大学を卒業していること
- 自然科学または人文科学分野に属する技術あるいは知識に関連する科目を専攻し、日本の専修学校の専門課程を修了していること(「専門士」あるいは「高度専門士」の称号を付与された者に限る)
■高度専門職ビザにおいてポイントが加算される場合(学歴について)
- 博士号や修士号
- 大学卒業かそれと同等以上の教育を受けた者
- 複数分野で上記の学位を複数有している者
参考:出入国在留管理庁:在留資格の明確化 法務省:ポイント計算表
職歴要件の詳細
「技術・人文知識・国際業務」ビザにおいて上記の学歴条件を満たさない場合、10年以上の実務経験(大学などで関連科目を専攻した期間を含む)があれば、申請が可能です。
なお報酬の要件としては、日本人が従事する場合の報酬と同等かそれ以上の報酬を受けることが必要です。
高度専門職ビザ(高度専門・技術分野)では、職歴(実務経験)が3年以上、5年以上、7年以上、10年以上で、それぞれポイントが加算されます。
参考:出入国在留管理庁:在留資格の明確化 法務省:ポイント計算表
高度専門職ポイント制の活用法
高度専門職ビザについては、学歴や職歴・年収といった評価項目ごとの点数を合計し、70点以上でなければなりません。
どのような条件でポイントが加算されるかを知っておけば、効率的に高度専門職ビザの申請条件を満たすことも可能です。ポイント制を上手く活用しましょう。
4.在留期間の更新と永住権取得に向けたキャリアプラン

「在留期間の更新について知りたい」「ゆくゆくは永住権を取得したいけれど、その申請方法は?」といった疑問を持っている方も多いでしょう。
以下では、在留期間の更新や永住権の取得に向けたキャリアプランを解説します。
在留期間更新の基本要件
在留期間を更新するには、日本での活動内容に応じた申請書や資料の提出が必要です。
そのほか、素行不良でないことや独立して生計を営める資産を有していること、雇用・労働条件が適正なものであること、といった要件があります。詳細を事前に確認しておきましょう。
在留期間更新許可申請は原則として在留期間の満了日以前からとなります。6か月以上の在留期間を有する方は、在留期間が満了する概ね3か月前から申請が可能になります。
住居地を管轄する地方出入国在留管理官署へ提出する方法のほか、オンラインによる申請もできます。
永住権申請までのロードマップ
永住権を申請する場合の一般的な流れは以下の通りです。
- 在留資格変更
特定技能1号を保有していて、特定技能2号への変更が必要な場合はこの手続きを行う。特定技能2号に移行することにより、永住権取得に向けた長期滞在が可能となる。 - 永住権の要件確認
技術・人文知識・国際業務などの一般の就労ビザ、高度専門職ビザ、家族滞在、日本人の配偶者といった在留資格により、永住権を得るための要件は異なる。日本滞在歴であれば、一般の就労ビザは10年、高度専門職ビザなら1年~3年が必要となる。 - 書類の準備
永住権申請には、永住許可申請書を始めとする多くの書類を準備する。具体的には、住民票や納税証明書、収入証明書など。提出すべき書類を漏れなく用意する必要がある。 - 申請書の提出
準備した書類は入国管理局に提出する。提出の際には、書類の不備がないように注意する。 - 審査・結果通知
申請後、審査には通常数か月~1年ほどの期間がかかる。申請が許可されれば入国管理局で手続きを行うが、その際には手数料(8,000円)がかかる。
IT人材の永住権取得における要件
IT人材が永住権を取得したい場合についての要件は以下の通りです。
技術・人文知識・国際業務ビザを取得して日本で働いている場合
原則として10年以上在留しており、永住申請を行う直近5年間は就労していることが必要となる。ただし配偶者が日本人や永住者である場合には、要件が緩和されることがある。
このほか、素行が善良であることや安定した生活を送れるだけの資産があること、罰金刑や懲役刑を受けておらず納税なども行っていること、といった要件を満たす必要があります。
5.IT人材のビザ申請における実務ポイントと必要書類

IT人材のビザ申請における実務上のポイントや必要となる書類について解説します。
申請手続きの基本的な流れ
ビザの申請については以下の2パターンが考えられるでしょう。
- 外国人エンジニアとして海外から日本に来る場合
- すでに他の在留資格を保有しているが、エンジニアビザに変更する場合
ここでは「外国人エンジニアとして海外から日本に来る場合」を想定し、申請手続きの基本的な流れを示します。
- 会社と雇用契約を結ぶ
会社との間で雇用契約を結び、雇用契約書を発行してもらう必要がある。 - 在留資格認定証明書の交付申請をする
就労者本人が海外にいる場合は代理人や雇用先の企業が代わりに申請し、受け取った証明書を本人に郵送する。この手続きは平均して1か月程度、場合によっては2〜3か月程かかることもある。 - ビザを申請する
在留資格認定証明書を受け取ったら、自国の在外日本公館(大使館あるいは領事館など)でビザを申請する。この際に在留資格認定証明書の提出がほぼ必須となる。 - 日本に入国する
無事にビザが発給されたら、在留資格認定証明書の有効期間内(発行から原則として3か月以内)に日本に入国ができる。パスポート、ビザ、在留資格認定証明書の提出が必要。 - 在留カードの交付
入国が認められたら在留カードが交付される。在留カードには在留資格、有効期間が記載されているため要確認。在留カードを受け取った後、業務をスタートできる。
必要書類の詳細リスト
エンジニアビザを申請するには、非常に多くの書類の準備・提出が求められます。
この在留資格で新規に日本への入国を希望するといった場合、所属機関に応じてカテゴリーが分けられ、必要書類が異なります。
しかしどのカテゴリーでも共通して、以下の書類が必要です。
必須となる基本書類
在留資格認定証明書交付申請書・顔写真・返信用封筒・パスポート
この他に必要となる書類については各自の確認が必要となるため、十分に注意して用意しましょう。
参考:外務省:就業ビザ
申請における注意点とスケジュール
エンジニアビザ申請における注意点を確認していきましょう。
まずは実務経験と仕事内容が関連しているかを確認することです。次に、十分な業務量の証明をすることです。
業務内容の範囲が定められているため、企業に就職したのちに、その要件に合った仕事に十分取り組めることを証明しなければなりません。
最後に、準備期間と申請書類の有効期限を確認することです。申請書類はすべて原則として取得から3か月以内のものです。必要書類を記入するだけでも手間と時間がかかります。
ビザの申請には、諸々の手続きを含めて1か月~3か月は見ておく必要があります。就労予定企業で発行してもらう書類などもあるため、余裕をもったスケジュールを組んでおきましょう。
6.自身に必要な日本のビザの種類をよく確認する

IT人材の日本での就労には、適切なビザの選択と取得が不可欠です。技術・人文知識・国際業務ビザと高度専門職ビザは、それぞれ異なる特徴と要件を持っています。
申請にあたっては、自身の学歴や職歴、将来のキャリアプランを考慮し、どちらのビザが最適か見極めることが重要です。
また永住権取得を視野に入れる場合は、早い段階から計画的な準備を進めることをおすすめします。