日本で働くソフトウェアエンジニアの給与はどのくらいの水準なのでしょうか?
経験年数・スキル・企業規模・勤務地など、様々な要因が給与水準に影響を与える中で、年収を上げていくためにどのようなキャリア構築が求められるのでしょうか?
本記事では、現状の市場動向から将来の展望まで、ソフトウェアエンジニアの給与に関する総合的な情報を解説します。
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- 日本のソフトウェアエンジニアの具体的な給与レンジと、経験年数・企業規模による違いについて
- 高給を実現するための具体的なキャリアパスと、それぞれのパスにおける収入の目安について
- 外資系・日系企業の給与の特徴と、グローバル市場における日本の給与水準の位置づけについて
1.日本で働くソフトウェアエンジニアの給与の現状

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速やテクノロジー産業の成長に伴い、ソフトウェアエンジニアの需要は着実に増加しています。
需要の高まりは給与水準にも反映されており、業界全体で上昇傾向が続いています。それぞれをくわしくみていきましょう。
ソフトウェアエンジニア|業界全体の平均年収と給与レンジ
日本のソフトウェアエンジニアの給与は、スキルレベルや経験によって大きな幅があります。
新卒エンジニア | 中堅エンジニア(3~5年目) | シニアエンジニア(5~10年目) |
平均年収300~400万円程度 | 平均年収450~600万円程度 | 平均年収600~800万円程度 |
年収レンジ250~450万円 | 年収レンジ400~700万円 | 年収レンジ500~1000万円以上 |
業界全体の平均年収は約480万円となっていますが、この数字は企業規模や地域・専門性によって大きく変動します。
特にクラウド・AI・セキュリティなどの先端技術分野では、平均を大きく上回る給与水準が一般的となっています。
ソフトウェアエンジニア|企業規模別の給与比較
企業規模は給与水準に大きな影響を与える要因の1つです。
■大手企業(従業員1000人以上)
基本給が高めに設定されており、賞与も年2回で4~6ヶ月分が一般的です。福利厚生も充実しており年収レンジは400~1,200万円にまで及びます。
■中堅企業(従業員100~999人)
基本給は業界平均程度で、賞与は年2回で3~4ヶ月分となっています。年収レンジは350~800万円程度です。
■ベンチャー企業(従業員100人未満)
基本給は変動的であり業績連動型報酬の比率が高い傾向にあります。ストックオプションが付与されることも多く、年収レンジは300~1,200万円以上と幅広くなっています。
参考:株式会社東京商工リサーチ 2024年 「中堅企業」動向調査
ソフトウェアエンジニアの経験年数による給与の変化
ソフトウェアエンジニアの給与は、経験年数に応じて段階的に上昇していく傾向にあります。
新卒から3年目までは基本的な開発スキルの習得期間として位置づけられ、年平均5~10%程度の給与上昇が見られます。
4~7年目になると専門性の確立期間となり、年平均10~15%の上昇率となります。またリーダー経験などのマネジメントスキルも獲得していく重要な時期です。
8年目以降は高度な専門性を発揮する時期となり、年平均上昇率は5~20%と変動的になります。この時期はマネジメントとスペシャリストのキャリアパスを選択する重要な分岐点となります。
2.日本で働くソフトウェアエンジニアの給与に影響を与える要因

ソフトウェアエンジニアの給与はさまざまな要因によって決定されます。
要因を理解し、戦略的にキャリアを構築することで、より高い給与を実現することが可能となります。
保有スキルと技術スタックの影響
エンジニアの給与を大きく左右する要因の一つが、保有するスキルと技術スタックです。
特に一例にはなりますが、以下のような市場での需要が高い技術を持っているかどうかが、給与水準に直接的な影響を与えます。
- クラウド技術
AWS・Azure・GCPの実務経験やクラウドアーキテクチャ設計能力・マイクロサービス実装経験が重視されます
- AI/機械学習分野
TensorFlow・PyTorch等のフレームワーク経験やデータサイエンスの実践経験・MLOpsの知識が求められます。
- セキュリティ分野
セキュリティ設計・実装経験や脆弱性診断・対策能力・各種セキュリティ認証の保持が評価されます。
技術スキルを保有することで、基本給に対して10~30%程度の上乗せが期待できます。
市場価値の高いスキルを戦略的に獲得していくことが、給与アップの重要な要素となっています。
役職とポジションによる違い
組織内での役職やポジションは、給与水準に大きな影響を与える要因となります。
◎技術リーダー
プロジェクト全体の技術戦略立案やチームメンバーの育成責任を担う。
◎アーキテクトポジション
システム設計の責任者として技術選定の決定権を持つ。
◎エンジニアリングマネージャー
チームマネジメントや人材育成・評価の責任を担う。
勤務地による給与格差
勤務地も給与水準に大きな影響を与える要因の1つとなっています。
やはり東京都心部は最も給与水準が高く、東京都心部を基準値とした場合、大阪・名古屋等の大都市では東京の85~95%程度の水準となります。
地方都市では東京の70~85%程度となりますが、生活費は低くなります。
リモートワークによって地域間格差は縮小傾向に
近年のリモートワークの普及により、地域間格差は徐々に縮小傾向にあるといえるでしょう。
地方在住でも都市部の給与水準で働ける機会が増加し、海外企業からの採用機会も増えています。給与の地域差よりも実力重視の傾向が強まってきており、場所に縛られない柔軟な働き方が可能になっています。
3.ソフトウェアエンジニアとして高給を実現するためのキャリアパス

ソフトウェアエンジニアとして高給を実現するためには明確なキャリアパスを描き、計画的にスキルと経験を積み重ねていくことが重要です。
以下では、代表的なキャリアパスについて、それぞれの特徴と実現のためのステップを解説します。
スペシャリストとしてのキャリア形成
技術スペシャリストとして高給を実現するためには、特定の技術分野で卓越した専門性を確立することが求められます。
市場価値の高い技術領域を選定し、将来性のある技術への早期参入を図ります。専門性を深めながら、周辺技術の習得も進めていきます。
実績構築の面では、オープンソースプロジェクトへの貢献・技術ブログの執筆・技術カンファレンスでの登壇などを通じて、自身の技術力を可視化していくことが効果的です。
また、テックリードやアーキテクトへの昇進を目指し、業界有識者としての地位を確立していくことで、より高い収入を実現することができます。
スペシャリストとしての年収は、経験や実績によりますが600~1,500万円程度となっています。
マネジメント職への転換による収入アップ
技術力を基盤としながらマネジメントスキルを獲得することで、より高い収入を目指すキャリアパスも有効です。
まずはチームリーダーとしての経験を積み、プロジェクト管理スキルの習得やメンバー育成の実践を行います。
ミドルレベルでは、複数チームのマネジメントや予算・人材計画の立案、部門戦略の策定などを担当します。
シニアレベルになると、開発部門全体の統括や経営層との橋渡し、技術戦略の策定などを行います。
マネジメント職の年収は、ポジションと企業規模によりますが800~2,000万円程度となっています。
フリーランス・副業による収入増加戦略
従来の雇用形態にとらわれずフリーランスや副業を活用することで、より柔軟な収入増加を目指すことも可能です。
フリーランスとして活動する場合は、専門性を活かした案件選択や複数プロジェクトの並行受注、直接契約による単価向上などを図ります。
副業・複業では、本業との両立が可能な案件を選定し、技術顧問・コンサルティング・オンラインプラットフォームの活用などを行います。
さらに技術教育・研修事業やコンテンツ販売、独自プロダクトの開発・運営などで収益の多角化を図ることも効果的です。
フリーランスでの収入は合計で800~2,000万円程度で、そのうち副業による収入は200~500万円程度が期待できるでしょう。
4.外資系企業と日系企業ソフトウェアエンジニアの給与比較

日本のソフトウェアエンジニア市場において、外資系企業と日系企業では給与体系や水準に大きな違いが見られます。
それぞれの特徴を理解することは、キャリア選択において重要な判断材料となります。
外資系企業の給与体系と特徴
外資系企業の給与体系は、グローバルスタンダードに基づいた成果主義の要素が強く、総じて高水準な報酬を提供する傾向にあります。
基本給与は市場価値に基づいて高めに設定され、職務給(ジョブ型)を採用し経験やスキルに応じて柔軟な給与設定が行われます。
インセンティブ制度も充実しており、業績連動型ボーナス・ストックオプションの付与・サインオンボーナス(入社祝い金)の提供なども一般的です。
昇給・昇進においては、実力主義による早期昇進の機会が多く、グローバルな異動機会も提供されます。経験5年以上のエンジニアの場合、年収レンジは600~2,000万円以上となっています。
日系企業の給与体系と特徴
日系企業の給与体系は年功序列的な要素を残しつつも、近年は成果主義的な要素を取り入れる傾向が強まっています。
基本給与には年功的要素が含まれ、職能給と役割給が混合された形態が多く見られます。勤続年数による段階的な昇給も特徴的です。
賞与は定期的な夏冬の支給が一般的で、各種手当も充実しています。残業手当の確実な支給も日系企業の特徴です。
福利厚生面では充実した社会保険・住宅手当・家族手当・退職金制度などが整備されています。経験5年以上のエンジニアの場合、年収レンジは450~800万円程度となっています。
グローバル市場での日本の給与水準
グローバル市場と比較すると、日本のソフトウェアエンジニアの給与水準は、それほど高くありません。ほかの職種との差が少ないため、給与に対する満足度も低い傾向にあります。
特に給与水準の高いアメリカは平均年収が1,100万円以上と、日本の2倍近くとなっています。
またインドの平均年収は500万円ほどと日本よりやや少ないのですが、国内全産業の9倍近くの年収が得られるためソフトウェアエンジニアという職業に対する満足度・給与水準は非常に高いものとなっています。
ただし近年はDX需要の増加やグローバル競争の激化・人材不足の深刻化などにより、給与水準は上昇傾向にあります。
またリモートワークの普及により、給与の平準化が進みつつあります。今後は、グローバル水準への収束傾向が強まり、成果主義的な評価がより一般的になると予想されます。
5.ソフトウェアエンジニアとして給与交渉を成功させるためのポイント

給与交渉は、エンジニアとしてのキャリアにおいて重要なスキルの1つです。適切な準備と戦略的なアプローチにより、自身の市場価値に見合った報酬を獲得することが可能となります。
市場価値を高める準備と実績作り
成功する給与交渉の基礎となるのは自身の市場価値を高め、それを客観的に示せる実績を作ることです。
また実績を体系的に整理し、交渉の場で効果的に提示できるよう準備をしておきましょう。
POINT 1 |技術力の証明
技術記事の執筆や公開・オープンソースへの貢献・技術カンファレンスでの登壇などが効果的です。
POINT 2|実績の可視化
ポートフォリオの整備・プロジェクト成果の数値化・顧客評価・フィードバックの収集を行います。また、同職種の市場相場や業界トレンド、競合他社の給与水準などの市場調査も重要です。
【補足】
定量的な成果:具体的なコスト削減額・生産性向上率・売上貢献度などを示すことができます。
定性的な評価:チームへの貢献度・技術的影響力・リーダーシップの発揮などが重要な要素となります。
転職時の給与交渉
転職時の給与交渉は、大幅な収入アップを実現できる重要な機会です。
1 .事前準備
現在の総報酬を詳細に整理し希望条件を明確化した上で、譲歩可能な範囲を設定しておくことが重要です。
2.交渉のプロセス
初期条件の提示から始め、複数の代替案を用意しておくことで柔軟な対応が可能となります。
給与以外の付加価値提案も効果的です。
市場価値の提示では、「同様のポジションの市場相場は○○円です」といった具体的な数字を示すことが有効です。
価値の説明では、これまでの具体的な貢献や実績を示し、建設的な提案としては段階的な昇給プランなどを提示することができます。
求める昇給・昇格を得るための施策
現職での昇給・昇格を実現するためには、評価期間での着実な実績作りが重要です。期待以上の成果を達成し、新規プロジェクトを立ち上げチームへの貢献を明確に示すことが求められます。
上司との関係構築においては、定期的な1on1を活用してキャリアプランを共有し、成果を可視化していきます。
昇格・昇給のためには、求められるスキル・期待される役割・評価基準を正確に把握することが重要です。
その上でスキルギャップの解消・リーダーシップ経験の獲得・部門横断的な活動への参加などを計画的に進めていきます。
昇格の提案時には、将来のビジョンを示しチームへの貢献を説明した上で、具体的な行動計画を提示することが効果的です。
6.日本のソフトウェアエンジニアの将来性と給与の展望

テクノロジーの急速な進化と働き方改革の推進により、日本のソフトウェアエンジニアの給与市場は大きな変革期を迎えています。
技術トレンドと求人市場の変化
最新技術の台頭により、エンジニアに求められるスキルセットと、それに伴う給与水準は大きく変化しています。
AI/機械学習分野では専門エンジニアの需要が急増しており、平均給与が20~40%増加する傾向にあります。
クラウドネイティブ開発においては、マルチクラウド対応の重要性が高まり、DevOpsエンジニアの価値が向上しています。
またWeb3.0関連技術では、ブロックチェーン開発者への高待遇や新興企業での活躍機会が増加しています。
採用形態も多様化しており、ジョブ型雇用の普及・副業や複業の一般化・フリーランス市場の拡大が進んでいます。
求められる人材像も変化し、複数領域のスキル保有・ビジネス理解力・グローバルコミュニケーション能力の重要性が増しています。
リモートワークがソフトウェアエンジニアの給与に与える影響
リモートワークの普及により、地理的制約が解消され、地方在住でも都市部の案件に参画できる機会が増加しています。
またグローバル企業からの直接雇用も増加し、給与の地域間格差は縮小傾向にあります。働き方も多様化し、複数社での並行業務や時短・時差勤務が容易になり、成果報酬型の雇用形態も増加しています。
リモートワークによって評価制度も変わってきている
評価制度も変革を迎えており、成果基準の明確化・リモート環境での評価方法の確立・チーム貢献の可視化が進んでいます。
またオンラインでの関係構築や非同期コミュニケーション・文化的な違いへの対応なども重要な課題となっています。
参考:厚生労働省 テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン
今後の給与動向予測
短期的には、IT人材不足の継続やグローバル水準への収束・専門性による格差拡大が予想されます。報酬体系も変化し、成果連動型の増加・フレキシブルな給与設計・株式報酬の一般化が進むと考えられます。
中長期的には、グローバル給与水準の標準化やAI活用による業務変革・新たな職種の創出が予想されます。
キャリアパスも多様化し、専門性と経営の融合やクロスボーダーな活躍・独立起業の機会が増加すると考えられます。
変化に対応することで給与はもちろんキャリアアップにも
さまざまな変化に対応するため、先端技術への早期参入・ビジネススキルの強化・グローバル対応力の向上が重要となります。
また継続的な学習習慣の確立・ポートフォリオの更新・ネットワークの構築なども、市場価値を維持するために必要な要素となっています。
7.日本のソフトウェアエンジニアの給与市場は転換期にある

ソフトウェアエンジニアの給与市場は、技術トレンドの変化・働き方改革になどより、大きな転換期を迎えています。
従来の年功序列的な給与体系から、よりグローバルで成果主義的な体系へと移行する中、エンジニア個人の市場価値がこれまで以上に重要となっています。
継続的なスキルアップと戦略的なキャリア構築を通じて自身の市場価値を高めていくことが、これからの時代における給与向上の鍵となるでしょう。
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