日本で働く上で欠かせない「有給休暇」について、正しく理解していますか?労働者の権利である有給休暇は、2019年の法改正により年5日の取得が義務化されました。
しかし、申請方法や職場でのコミュニケーション、給与計算など、知っておくべきポイントは多岐にわたります。
この記事では、有給休暇の基本制度から実際の取得手順、よくあるトラブルの対処法まで、日本で安心して休暇を取るための完全ガイドをお届けします。
- 有給休暇の法定付与日数と取得要件、2019年義務化の詳細について
- 申請から復職まで4STEPの具体的な取得手順とコミュニケーション方法について
- 給与計算の仕組みと繁忙期や拒否された場合の対処法について
1.日本の有給休暇制度の基礎と最新トレンド

日本で「有休」や「有給」と呼ばれるものは、正式には「年次有給休暇制度」を指します。
1947年に労働基準法が施行され、この年次有給休暇制度が生まれました。雇用形態を問わず、企業で一定期間勤続した労働者に対して心身の休息を取ってもらうことが目的の制度です。
有給休暇の取得は労働者が持つ正当な権利です。近年、ワークライフバランスを重視する価値観が広まったことで、有給休暇をすすんで取得する意識が社会全体で高まっています。
参考:厚生労働省:年次有給休暇
法定付与要件と日数早見表
年次有給休暇制度では、特定の条件を満たした労働者に10日~20日の範囲で休暇が与えられます。
付与される要件は「雇い入れた日から6カ月経過している」ことと、「全労働日のうち8割以上出勤している」ことの2つです。
継続勤務年数 | 付与日数 |
6カ月 | 10日 |
1年6カ月 | 11日 |
2年6カ月 | 12日 |
3年6カ月 | 14日 |
4年6カ月 | 16日 |
5年6カ月 | 18日 |
6年6カ月以上 | 20日 |
ただしパートタイム労働者の場合は、週および年間の所定労働日数に応じて有給休暇の日数が変動します。
週所定労働日数 | 付与日数(継続勤務年数) |
4日 | 7日(6カ月)~15日(6年6カ月以上) |
3日 | 5日(6カ月)〜11日(6年6カ月以上) |
2日 | 3日(6カ月)〜7日(6年6カ月以上) |
1日 | 1日(6カ月)〜3日(6年6カ月以上) |
2019年「年5日義務化」の背景
少子高齢化が進み、働く人々のニーズが多様化する中で「働き方改革」が推し進められています。その一環で実施されたのが年次有給休暇の5日間の取得義務化です。
これは年間10日以上の休暇が付与されている労働者が対象で、2019年の法改正により企業側に時季を指定して取得させることが義務付けられました。
これらの取り組みが働き方の柔軟性や生産性向上などに寄与すると期待されています。
万が一労働基準法に違反した場合、労働基準監督署が是正に向けて指導し改善を目指します。悪質なケースなどについては、企業側に1人あたり30万円以下の罰金などが科せられるおそれがあります。
参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署:年次有給休暇取得の解説
2.日本企業の休暇文化とコミュニケーション

有給休暇の取得は、本来許可制ではありません。しかし一般的に、休暇申請時は「休暇を取らせていただく」姿勢のコミュニケーションが日本社会になじみます。
休暇を取りたいときは、直属の上司に相談して申請します。日本企業でみられるコミュニケーションの特徴は「遠慮文化」を大切にする言葉遣いです。
例えば、趣味のために1日休暇を取りたいときは「○日に私用のためお休みをいただいてもよろしいでしょうか。」と伝えます。
上司への相談タイミングと配慮すべきポイント
休暇申請は、業務への影響を最小限に抑えるため、できるだけ早めに相談することが重要です。特に長期休暇や繁忙期の休暇を希望する場合は、1ヶ月以上前に相談するのが理想的です。
また、チーム全体のスケジュールや重要なプロジェクトの進行状況を考慮し、同僚への負担を軽減する配慮を示すことで、上司からの理解を得やすくなります。
「この期間であれば業務への影響が少ないと思うのですが」といった提案型の相談も効果的です。
3.有給休暇取得までの4STEPロードマップ

申請の手続きだけでなく、事前計画や復職後フォローにもこだわると、より安心して休暇を取りやすくなります。エンジニアの方は、以下の4STEPに沿った手続きを参考にしてください。
STEP1 計画立案と上司相談
休暇取得の計画を立てて上司に相談します。上司に伝える内容は、休暇の希望日と、期間中に発生する業務予定の見積もりです。
旅行のため休暇を取りたいのであれば、希望日は数日間にわたります。あらかじめ決まっている予定の休暇を取得したいときは、できるだけ早く相談しましょう。
休暇中は、担当する業務が滞る可能性があります。休暇の影響がどの程度発生するのかを考慮したうえで、上司に相談すると理解を得やすくなります。
STEP2 社内申請書の作成・提出
有給休暇を取得するには、申請書の提出が必要です。社内のルールに従って、申請書を記入して提出します。
紙の申請書に手書きする場合と、業務アプリ等で申請できる場合が存在します。外国籍の労働者が多い職場では、英語表記の申請書が用意されていることがあります。
申請書は、直属の上司を経由して人事担当者へ渡るケースが一般的です。申請書の作成でわからない点があれば、人事担当者に質問すると良いでしょう。
STEP3 プロジェクト引き継ぎと休暇中の対応
担当中のプロジェクトに関する対応の方針は、休暇前に定めましょう。本来、休暇中に仕事をする必要はありません。しかし、職種によってはやむを得ず休暇中の緊急対応が発生します。
なお、年次有給休暇の日に出勤すると、休暇として処理されません。リモートワークの可否や緊急連絡の手段などは、万が一の事態に備えてあらかじめ決めましょう。
休暇中に対応が発生する具体例
システム保守を担当するエンジニアです。顧客のシステムに不具合が発生したときは、休暇中であっても対応を迫られる可能性があります。
STEP4 復職後フォローアップ
休暇を終えて職場に復帰したあとのフォロー、事後処理も重要です。休暇中に発生していた仕事やプロジェクト状況の確認も欠かさず行うと、好印象につながります。
有給休暇後の出勤日は、休暇中に溜まった業務への対応が必要です。上司や同僚と情報共有や引き継ぎをする場合もあります。普段の担当業務を代わってもらった同僚には感謝を伝えましょう。
4.給与・キャリア・税金:休暇中に気をつけたいこと

有給休暇中の賃金額は、通常の勤務日とは異なる計算方法をとる場合があります。休暇を取得した月の給料は、普段の基本給と差が生じる可能性に気をつけましょう。
税金や社会保険料は、勤務日と有給休暇中の扱いに大きな差は存在しません。ただし、退職時に有給休暇を消化するときは、所得税を節税できることがあります。
賃金計算3パターンと社会保険控除
有給休暇日の賃金は、通常賃金・平均賃金・標準報酬月額を用いた3つのパターンで計算できます。
- 通常賃金:通常勤務した場合の日給をそのまま利用
- 平均賃金:直近3カ月間の賃金総額÷全勤務日数(有給休暇日も含む)で算出
- 標準報酬月額:全50等級のうち、当てはまる金額÷30で算出
標準報酬月額は、社会保険料の金額を算出するときに利用する概算の金額です。有給休暇中の賃金額が気になる方は、就業規則で自社のルールを確認しましょう。
参考:厚生労働省:有給休暇
評価・昇進・年収への影響を最小化
一般に、賃金額は会社からの人事評価によって決まります。日本では、一方的な賃金の引き下げは認められていません。しかし、役職の降格によって手当が減る可能性は考えられます。
有給休暇は労働者の権利であり、頻繁に取得したとしても問題ありません。
ただし、休暇が多いとプロジェクトチームへの貢献が少ないと判断され昇進や年収などに影響を及ぼすことがあります。
多くの日本企業では、上司との面談の機会が設けられています。評価や賃金に対する疑問があれば、上司に質問しましょう。
休暇中にできるスキルアップ施策
まとまった休暇を取ると、自己投資に回せる時間が生まれます。休暇の時間を活かし、エンジニアとしてスキル向上を目指しましょう。
業務への貢献度アップのみならず、キャリアアップの足がかりにもなります。
具体的なスキルアップ方法例
- オンライン学習:自宅や旅先で開発スキルを身につけられる
- OSS活動:技術力の向上、新たな人脈の形成が期待できる
- ブログ執筆:専門知識やスキルを発信し、アクセス数しだいでは収益化できる など
5.FAQ & トラブルシューティング

有給休暇の取得をめぐって、勤務先とトラブルに発展するケースは珍しくありません。申請時に日程の変更を提案された事例や、申請そのものを却下された事例などが存在します。
交渉で解決しない場合は、労務問題の専門家に相談しましょう。
「繁忙期でも取得できる?」
勤務先の繁忙期や、プロジェクトが大詰めの時期は、有給休暇を申請しても拒否されることがあります。企業は有給休暇の「時季変更権」を持つためです。
時季変更権は、労働者の申請した有給休暇が「事業の正常な運営を妨げる」ときに、別の日に取得するよう指示できる権利のことです。
特定の労働者でなければ成立しない業務があるときや、代わりの人員を確保できない場合は時季変更権の行使が認められやすくなります。
繁忙期であっても、休暇の分散取得やシフト制の活用によって、時季変更権の行使を避けながら円満に有給休暇を取得できる可能性があります。
「有給を拒否された場合の対処法」
有給休暇の取得に対する企業の拒否権はなく、時季変更権の行使も範囲は限られます。
しかし、企業側の理解不足が原因で休暇取得を認めてもらえず、トラブルに発展することがあります。
有給休暇について困ったことがあれば、対面や電話で相談することをおすすめします。企業によっては、人事の窓口や労働組合への問い合わせが可能です。
また、弁護士や労働基準監督署など専門家への相談もおすすめです。厚生労働省の相談機関は、さまざまな言語に対応しています。
「フリーランス契約者はどうする?」
ここでは、労働者とは異なる契約形態で働くフリーランスのケースについても補足します。
フリーランスには有給休暇の制度が存在しません。勤務日や時間を自由に設定できる点がフリーランスの特長です。
しかし、フリーランスエンジニアの契約では、クライアントに稼働時間を定められる場合があります。このとき、自ら交渉してうまく休暇を取る必要があります。
「あらかじめ休暇予定日を伝える」「休暇前に仕事のペースを上げて前倒しで作業する」など、工夫して休暇を取りましょう。
6.外国籍エンジニアとして日本で有給休暇を味方に活躍しよう

有給休暇は労働者に保障された正当な権利です。
制度への正しい理解と適切なコミュニケーションにより、職場での信頼関係を保ちながら充実した休暇を実現できます。
申請時は計画的に準備し、引き継ぎや復職後のフォローを丁寧に行うことで、チーム全体の生産性向上にもつながります。
トラブルが生じた際は専門機関への相談を躊躇せず、自身の権利を適切に守りましょう。有給休暇を上手に活用して、健全なワークライフバランスを実現してください。