日本のIT業界では、給料が支払われない「サービス残業」が深刻な問題となっています。
外国籍エンジニアにとって、サービス残業はビザ更新や言語的な障壁といった特有のリスクを抱えることにもなる問題です。
この記事では、日本のIT業界のサービス残業の実態をデータで解説し、外国籍エンジニアが安心して働ける会社を見極めるための具体的な方法をわかりやすく紹介します。
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- 日本IT業界のサービス残業の実態と外国籍エンジニアが直面する特有のリスクについて
- 残業代の正しい計算方法と未払い残業代の請求手順について
- サービス残業ゼロ企業を見極めるための面接時チェックポイントについて
1.日本IT業界のサービス残業:データで現状をチェック

まずは、日本のIT会社でサービス残業がどのくらい行われているのかを、具体的なデータで見てみましょう。
情報通信業の月平均残業15.5時間、サービス残業の実態
厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、IT業界を含む情報通信業の1ヶ月の平均残業時間は15.5時間です。
これは全産業平均の10.0時間と比べてかなり高い数値となっています。
さらに重要なのは、実際の現場ではサービス残業(給料が支払われない残業)が横行しているという事実です。
民間調査では、IT業界で残業をしている人の中で、お給料が支払われないサービス残業をしている人が全体の約3割にも及ぶとの報告もあります。
過労死ラインを超える残業と労災認定
長時間働きすぎて体調を崩したり、心の病気になったり、最悪の場合亡くなってしまったりした場合、「労災(労働災害)」として認められることがあります。
労災と認められると、労災保険からサポートを受けることができます。
「過労死ライン」について
日本では健康に危険が及ぶ労働時間として「過労死ライン」が決められています。
過労死ラインは、1ヶ月の残業時間が80時間以上の場合を指します。残業時間が月80時間より少なくても、長時間労働が続いて病気になった場合は、労災に認定される可能性があります。
IT業界に多く見られる働き方や文化が過労につながることも
IT業界にはスタートアップ企業も多く、チャレンジ精神あふれる会社風土の中で長時間労働が当たり前になっているケースがあります。
中には、成果主義や自由な働き方を理由に、残業代の支払いをあいまいにしたまま長時間働かせる例も見られます。
また、IT業界の職種が「裁量労働制」の対象になっていることを理由に、十分な残業代を支払わない会社も存在します。
裁量労働制とは、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ決めた時間だけ働いたものとして、給料を支払う制度です。
裁量労働制の職種でも、一定の条件を満たしていない場合は裁量労働制が適用されず、違法になるケースもあります。
2.サービス残業が生まれる構造的な理由

IT業界でサービス残業が多いと言われる理由には、業界の構造的な問題がいくつかあります。
外国籍エンジニアが日本のIT業界で働く前に理解しておくべき、3つの主な理由についてくわしく説明します。
多重下請けと受託開発のスケジュール圧力
IT業界では一般的に、元請け会社がクライアントから案件を受けて、複数の下請け会社に開発を任せます。
下請け会社は元請け会社のスケジュールに合わせて納期が決められることが多いため、厳しいタイムスケジュールになり、結果的に残業時間が増えてしまいます。
特に下流工程を担当している下請け会社は、タイトな納期でも対応を求められることがあり、それが長時間残業の原因となります。
外国籍エンジニアは、入社を検討している会社がこのような多重下請け構造のどの位置にあるのかをチェックすることが重要です。
“仕様追加は善意対応”という暗黙のルール
IT業界では、元請け会社が開発を受託した後でも仕様が変更されたり、追加されたりすることがあります。また急なトラブルが起こることも珍しくありません。
しかし仕様の追加でスケジュールが遅れても、納期の変更なしで納品を求められるケースがあります。
この「善意対応」という暗黙のルールは、日本のビジネス習慣に馴染みのない外国籍エンジニアには理解しにくい部分かもしれません。
こういった構造が残業の長時間化の原因のひとつとなっています。
正しく使われていない固定残業代と不正確な勤怠管理
固定残業代の仕組みが正しく使われていないケースもあり、実際の労働時間に対して残業代が適切に支払われないこともあります。
固定残業代とは、実際の残業時間に関係なく、月に一定時間の残業をするものとして残業代を支払う制度です。
固定残業代でカバーする時間を超えて残業した場合、会社は本来、超過分の残業代を追加で支払う義務があります。
しかし実態としては、固定残業代にすべての残業分が含まれているとみなされ、追加で支払われないケースもあります。
正確な勤怠管理を行っていない会社では、残業代が発生していることを証明できる証拠を残すことができないため、特に注意が必要です。
3.外国籍エンジニアが直面する追加リスク

外国籍人材が日本で働く場合には、ビザや言語などの問題が起こることがあります。日本のIT会社で残業をする際にも、外国籍エンジニアならではのリスクがあります。
ここでは、外国籍エンジニアが日本のIT会社で残業するときに起こりうるリスクについて、くわしく説明します。
ビザ更新と未払い残業:在留資格取消のリスク
日本で働く外国籍エンジニアは、多くの場合「就労ビザ」を取得します。ビザの在留期間は3ヶ月~5年と幅があり、定期的に更新しなければなりません。
就労ビザは「労働基準法」というルールに従った働き方をしていなければ不法就労にあたるため、ビザの更新が難しくなる可能性があります。
労働基準法で決められた労働時間の上限と影響
「1日8時間、1週間40時間」です。ただし、法定労働時間を超えて働く場合には「36協定」を結ぶことで、「1ヶ月45時間、1年360時間」までの残業ができます。
実際の労働時間と申告された勤怠に差が生じる場合、結果的に未払い残業が発生するリスクもあります。
特に外国籍エンジニアにとっては、こうした状況がビザ更新に影響する可能性があるため注意が必要です。
日本語のみの勤怠システムで申請できない
会社によっては、残業をする際にあらかじめ「残業申請」をする必要があります。残業する理由や業務内容、予定時間などを申請して、承認を得なければなりません。
多くの会社では、オンラインで申請する「勤怠管理システム」が使われていますが、対応言語が日本語のみの場合もあります。
外国籍エンジニアにとって、言語的な問題で残業理由が承認されなかったり、残業申請が面倒になったりして、残業申請が滞る可能性もあります。
時間外に働いたのに、申請が通らなくて残業代が支払われないという事態にならないよう注意しましょう。
4.サービス残業は違法!残業代の計算と請求手順

給料を支払わずに残業させる行為は違法です。気がついたらすぐに残業代を請求することを視野にいれましょう。
ここでは、残業代の計算方法と請求手順についてくわしく説明します。
割増賃金:基本給×1.25〜1.5の計算式
残業代を計算する際には、以下のように計算します。
時間外労働の賃金の計算式
- 基本給の1時間あたりの賃金×1.25〜1.5×時間外労働した時間
法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた場合、残業代として25%増しの金額をもらえます。ただし1ヶ月の残業時間が60時間を超えた場合は、50%増しの金額を残業代としてもらえます。
深夜労働の賃金の計算式
深夜や休日に仕事をした場合には、以下の計算式で賃金を計算します。
- 基本給の1時間あたりの賃金×1.25×深夜労働した時間
休日労働の賃金の計算式
- 基本給の1時間あたりの賃金×1.35×休日労働した時間
固定残業代が支給される会社で、固定残業時間を超えて実際に残業した場合は、実際の残業時間と固定残業時間との差に応じた割増賃金をもらう権利があります。
その他のポイント
一方で、固定残業代で決められている時間より実際の働いた時間が短い場合でも、決められた一定額の割増賃金は支給され、差額分の支給が減ることはありません。
また実際の残業代と固定残業代の差額を次の月に持ち越して相殺することはできません。
証拠収集→社内請求→労基署・裁判の流れ
支払われていない残業代があれば、労働者は勤め先に請求する権利があります。未払いの残業代は、以下のような手順で請求することが可能です。
未払いの残業代について会社に申し出ても応じてくれない場合などには、法的手段を検討しましょう。
- 証拠を集める
- 請求書を作成して会社に請求する
- 対応してもらえない場合は、労働基準監督署、または弁護士に相談する
残業代を支払わない会社の場合、勤怠管理がいい加減な可能性があります。普段から自分で会社の時計を撮影したり、PCのログの履歴・メールなどを残したりして残業時間を証明できる証拠を集めるようにすると良いでしょう。
残業代を請求できる期間は3年なので、できるだけ早めに申し出ることをおすすめします。
5.外国籍エンジニアのためのサービス残業ゼロ企業のチェック方法

残業・サービス残業を減らすために取り組んでいる会社の多くは、勤怠管理システムや業務効率化ツール、タスク管理ツールなどを効果的に活用しています。
勤怠管理システムの充実度をチェック
勤怠管理システムでは、オフライン・オンラインどちらでもリアルタイムに出退勤を記録することができ、正確な勤怠時間の把握ができます。
残業の時間も適切に記録されるため、会社が無駄な残業時間を減らせるうえ、アラート機能で残業時間の上限をお知らせすれば、サービス残業を防ぐこともできます。
外国籍エンジニアは面接時に、勤怠システムが多言語対応しているかどうかもチェックしましょう。
業務効率化への取り組み
業務効率化ツールで単純作業を自動化すればコア業務に集中できるため、結果的に残業時間の削減につながります。
また、タスク管理ツールを使って業務の進捗を見える化することで、正しい優先順位で仕事をスムーズに進めることができるため、無駄な残業時間を省くこともできます。
面接時に確認すべきポイント
外国籍エンジニアが会社選びの際にチェックすべきポイントをまとめました。
- 36協定の締結状況と残業時間の上限
- 固定残業代の詳細(何時間分含まれているか、超過分の支払い方法)
- 勤怠管理システムの言語対応状況
- 実際の月平均残業時間と残業代の支払い実績
- 外国籍人材への労働条件説明体制
6.日本IT業界でサービス残業を避ける:外国籍エンジニアへの重要ポイント

日本のIT業界で働く外国籍エンジニアは、一般的な労働問題に加えてビザ更新や言語的な障壁といった特有のリスクに注意が必要です。
面接時には36協定の内容や勤怠システムの言語対応、実際の残業時間などを遠慮せずに確認しましょう。
適切な労働環境を提供する会社を見極めることで、安心してスキルを活かせるキャリアを築くことができます。