「エンジニアを辞めたい」と検索した気持ちは、決して間違っていません。実際、多くのエンジニアが一度は同じ悩みを抱えたことがあるでしょう。
この記事では、後悔しない判断をするために、問題の本質を見極める診断チェックリスト、5つの選択肢の詳細比較、そして具体的な行動プランを紹介します。
- エンジニアを辞めたい理由が「職種」か「職場」かを判断する20項目診断について
- 現職改善から異業種転職まで取れる5つの選択肢とメリット・デメリットについて
- 後悔しない転職活動の進め方と面接での効果的な伝え方について
1. エンジニアを辞めたいと感じる11の理由
まずは自分の「辞めたい理由」を言語化することで、問題の本質が見えてきます。以下の11の理由から、当てはまるものをチェックしてみましょう。
理由1:長時間労働と過度な残業による疲弊
ある会社の調査によると、IT業界の平均残業時間は月23.2時間というデータがあります。
ただし企業によって大きく異なる場合があります。デスマーチ、クランチタイム、突発対応が常態化している現場では、月80時間(過労死ライン)を超えることも珍しくありません。
実際に「残業の多さに体を壊してしまった。月150時間を超える残業がずっと続いており、精神面と体力面で潰れてしまった」という声もあります。心身の限界を感じているなら、それは正常な反応です。
参考:Geekly Media:IT業界の残業の実態 厚生労働省 過労死ライン基準
理由2:給与や評価が労働量・スキルに見合わない
日本のエンジニア平均年収は約550万円で、グローバル比較では中位レベル、アメリカの半分以下です。エンジニアの退職理由ランキングでは「給与」が1位となっており、転職理由でも「収入アップのため」が最多と言われます。
スキルを磨いても給与が上がらない、評価制度が不透明で頑張りが報われないという不満は、多くのエンジニアが抱える共通の悩みです。
理由3:人間関係のストレスとコミュニケーション課題
上司との関係、チーム内の軋轢、技術職特有のコミュニケーションの難しさに悩むエンジニアは少なくありません。
「職場の雰囲気は悪くなかったものの、相性の悪い先輩がおり、パワハラに耐えかねて転職した」というケースも報告されています。
パワハラや理不尽な指示に日々疲弊している状況では、本来のパフォーマンスを発揮することは困難です。
理由4:絶え間ない技術学習へのプレッシャーと疲労
トレンドの変化についていけない焦り、「勉強し続けなければ取り残される」という強迫観念に苦しんでいませんか。
「新しい技術やトレンドに追いつくことは、エンジニアにとって常に課題です。
技術の進化がめまぐるしいために、苦労して習得した技術が古くなってしまうこともめずらしくありません」。プライベート時間まで学習に費やす負担は、エンジニア特有の悩みといえるでしょう。
理由5:客先常駐による帰属意識の欠如
SES/客先常駐の構造的な問題により、「誰のために働いているのか」という疑問を抱く人は多いです。日本のIT系の仕事は多重請負のピラミッド構造で、薄給で納期に追われるブラック企業になりやすい傾向があります。
自分のキャリア形成が不透明で、成長が実感できない状況は大きなストレス要因となります。
理由6:単調な業務やスキルが活かせない仕事
レガシーシステムの保守のみ、下流工程しか経験できない、テストや監視など成長実感のない作業の繰り返し。
「プログラミングがしたいと思って入社したにも関わらず、監視オペレーターやテクニカルサポートといったオペレーション業務を任される」ケースも多く、やりがいを感じられない状況が続くと、モチベーションは確実に低下していきます。
理由7:キャリアパスが見えない不安
マネジメントかスペシャリストかの選択肢が狭く、ロールモデルも不在という状況に不安を感じる人は多いです。ITエンジニアのキャリア不安1位は「自分の技術やスキルの陳腐化」といわれています。
40代、50代のエンジニアの将来像が描けず、このままでいいのかという漠然とした不安を抱えている人は決して少なくありません。
理由8:ワークライフバランスの崩壊
突発的なトラブル対応やオンコール対応の負担で、家族や趣味の時間が取れない状況が続いていることも理由となるでしょう。仕事とプライベートの境界が曖昧になった状態は、長期的には持続不可能です。
「残業や休日出勤が多くなることでプライベートの時間が取れなくなり、働き方に不満を感じる」ことが、退職を考える大きな要因となっています。
理由9:会社の将来性や事業内容への疑問
業績不振や経営不安、技術的負債の蓄積、DX推進の遅れなど、会社の未来が見えない状況では、自分のキャリアも不安定に感じるのは当然です。
転職理由として「会社や業界の将来性に不安を感じて」を挙げるエンジニアも多く、組織の先行きに不安を抱えているエンジニアが少なくないことがわかります。
理由10:自分にはエンジニアの仕事が向いていない
論理的思考や問題解決が苦痛、一人で黙々と作業することへの違和感、もっと人と関わる仕事がしたいという願望。
「スキルの習得に時間がかかる、チームでの仕事が合わない、ミスが多い」からと言って、かならずしもエンジニアに向いていないとは限りません。とはいえ、これらは適性のミスマッチである可能性が高く、無理に続けても苦しいだけかもしれません。
理由11:女性エンジニア特有の悩み
産休・育休後の復帰の難しさ、時短勤務への理解の欠如、女性エンジニアのロールモデルの少なさなど、女性特有の課題も存在します。
キャリアか家庭かの二択を迫られる環境は、女性エンジニアにとって大きな障壁となっています。
2.「エンジニアを辞めたい」けど「もったいない」—この葛藤を乗り越える

多くのエンジニアが「せっかくここまでやってきたのに」という感情に悩まされます。
この心理的な葛藤を乗り越えるために、経済学的な視点から考えてみましょう。
多くのエンジニアが抱える「もったいない」という感情
「せっかくここまでやってきたのに」「積み上げたスキルが無駄になるかも」「転職したら給与が下がるかも」。この感情が、苦しい状況に留めている可能性があります。
「もったいない」の正体は”サンクコストの罠”
サンクコスト(埋没費用)とは、回収不可能な過去の投資のことです。
人は過去の投資を無駄にしたくないという心理が働きますが、経済学では「過去ではなく未来で判断すべき」が正解とされています。過去に費やした時間やお金は、もう取り戻せません。重要なのは「今後どうするか」という未来志向の判断です。
今の環境を続けることで失う「機会コスト」
今の環境で1年、3年、5年を過ごすことの代償を考えてみてください。
失われる健康、時間、他のキャリアの可能性を想像してみると、「もったいない」という過去への執着よりも、「これからどうしたいか」という未来志向の判断の方が重要であることがわかります。
エンジニア経験は決して無駄にならない
論理的思考力、問題解決能力、技術理解は汎用的なスキルであり、他職種でも有効なスキルセットになります。「エンジニアを辞める」≠「スキルを捨てる」です。むしろ、エンジニア経験を持つ人材は、多くの分野で重宝されています。
3. 【診断】エンジニアを辞めたい理由は「職種」か「職場」か?

この判断を誤ると、転職しても同じ悩みを繰り返します。20項目のチェックリストで、問題の本質を見極めましょう。
この判断を誤ると、転職しても同じ悩みを繰り返す
「エンジニアという職種」が嫌なのか、「今の会社という環境」が嫌なのか。
この本質を見極めることで、取るべき行動が180度変わります。
【20項目チェックリスト】問題はどこにある?
以下のチェックリストで、自分の問題がどこにあるかを診断してください。
【Aグループ】エンジニアという職種自体への適性(7項目)
- □ コードを書くこと自体が苦痛になっている
- □ 技術を学ぶこと自体が嫌いになった
- □ 論理的思考やデバッグが根本的に苦手だと感じる
- □ もっと人と直接関わる仕事がしたいと強く思う
- □ 5年後もエンジニアをしている自分が想像できない
- □ 問題解決よりも、企画や戦略に興味がある
- □ 一人で黙々と作業するスタイルが合わない
【Bグループ】今の職場環境の問題(7項目)
- □ 残業時間が月40時間を超えている
- □ 給与が市場相場より明らかに低い
- □ 上司や同僚との人間関係が主なストレス源
- □ 古い技術しか使えず、スキルアップできない
- □ 客先常駐や多重下請け構造に問題を感じている
- □ 会社の将来性や経営方針に不安がある
- □ 部署異動や環境変更で改善する可能性があると思う
【Cグループ】メンタル・身体面の限界サイン(6項目)
- □ 朝起きることが辛く、出社に強い抵抗感がある
- □ 不眠、頭痛、胃痛などの身体症状が2週間以上続く
- □ 医師からストレス関連の診断を受けている
- □ 休日も仕事のことが頭から離れず、リフレッシュできない
- □ 趣味や好きなことへの興味が薄れてきた
- □ あと1年この状況が続くと想像すると耐えられない
診断結果の解釈
Aグループに多くチェックがついた場合
職種転換を検討すべきです。エンジニアスキルを活かせる別職種(ITコンサルタント、プロダクトマネージャーなど)への転職を考えましょう。
Bグループに多くチェックがついた場合
エンジニアとして別企業への転職を検討すべきです。仕事内容は好きなので、環境を変えることで状況は大きく改善する可能性があります。
Cグループに多くチェックがついた場合
今すぐ休養が必要です。休職や医療機関への相談を最優先してください。健康を犠牲にしてまで続けるべき仕事はありません。
A・Bが同程度チェックされた場合
まずはBの環境改善(現職での異動や転職)を試し、それでも解決しなければAの職種転換を検討しましょう。
4. エンジニアを辞める前後に取れる5つの選択肢
「辞める」か「続ける」かの二択ではありません。
5つの選択肢を詳しく見て、自分に最適な道を見つけましょう。
【選択肢1】現職での環境改善を試みる
こんな人向け:Bグループ診断が多く、会社自体には不満がない人
上司や人事への率直な相談(業務量調整、配置転換、メンタルヘルスケア)、部署異動やプロジェクト変更のリクエスト、リモートワークやフレックスタイム制度の交渉など、現在の会社内で改善できる可能性を探ってみましょう。
- メリット:転職のリスクなし、慣れた環境で働ける
- デメリット:改善されない可能性がある、時間がかかる
【選択肢2】エンジニアとして別企業に転職する
こんな人向け:Bグループ診断が多く、エンジニアの仕事自体は好きな人
転職で改善が期待できるポイントとして、労働時間(リモートワーク可、フレックスタイム制、残業少なめの企業)、給与水準(市場価値に見合った報酬で年収50〜100万円アップも可能)、技術環境(最新技術、モダンな開発手法、成長できる環境)、キャリアパス(評価制度が明確、成長機会が豊富な企業)、企業文化(風通しの良さ、心理的安全性が高い職場)などが挙げられます。
失敗しないために
企業の開発体制、技術スタック、企業文化を事前リサーチし、口コミサイトで実態確認(労働時間、人間関係、評価制度など)を行い、面接での逆質問を活用(残業時間、リモート実施率、評価制度を確認)することが重要です。SES企業への安易な転職は慎重に検討しましょう。
- メリット:エンジニアスキルを活かせる、年収アップの可能性が高い
- デメリット:企業選びを誤ると同じ悩みを繰り返す
【選択肢3】エンジニアスキルを活かせる別職種へ転職する
職種転換のためには、コミュニケーションスキルの向上、ビジネススキルの学習(マーケティング、財務など)、職務経歴書での「転用可能スキル」のアピールなどの準備が必要です。
こんな人向け:Aグループ診断が多い、企画・戦略・人と関わる仕事に興味がある人
おすすめ職種6選
転職後の年収は、個人のスキルや経験、転職先の企業規模によって大きく変動するため、年収はあくまで目安と考えましょう。
1. ITコンサルタント
クライアントのIT課題を技術的知見で解決する仕事で、年収目安は600万〜1,000万円以上です。転職時に100万円~300万円ほど年収アップできる場合もあり、20代平均452万円、30代663万円、40代814万円と高い収入が期待できます。
年収アップや戦略的思考が身につく、クライアントとの直接的関わりがメリットですが、高いコミュニケーション能力が必須で、出張が多い場合もあります。
2. プロダクトマネージャー(PdM)
プロダクトの方向性を決定し、開発をリードする仕事で、年収目安は600万〜1,200万円です。市場価値が高く、経営に近い視点でやりがいが大きいのがメリットですが、責任が重く、関係者調整が多いのがデメリットです。
3. プリセールス/セールスエンジニア
技術と営業の橋渡しを行い、顧客への技術提案を担当します。年収目安は500万〜800万円で、顧客との直接対話やインセンティブ、営業スキルが身につくメリットがありますが、営業的な側面が強く、数字へのプレッシャーがデメリットです。
4. Webディレクター/プロジェクトマネージャー
プロジェクト全体のマネジメントを行い、年収目安は500万〜800万円です。チーム全体を見渡せ、マネジメントスキルが身につき、エンジニア経験が活きるメリットがありますが、板挟みになりやすく、調整業務が多いのがデメリットです。
5. 社内SE/情報システム部門
自社内のIT環境の整備・運用・企画を担当し、年収目安は450万〜700万円です。残業が少なめで安定しており、幅広い技術に触れられるメリットがありますが、最新技術に触れにくく、年収上限が低めというデメリットがあります。
6. IT営業/法人営業
IT製品・サービスの提案営業を行い、年収目安は400万〜1,000万円以上(インセンティブ次第)です。高収入の可能性があり、顧客の課題解決や営業スキルが身につくメリットがありますが、ノルマのプレッシャーがあり、技術から離れるデメリットがあります。
【選択肢4】フリーランスエンジニアとして独立する
こんな人向け:実務経験3年以上、専門性あり、自律的に働ける人
高単価(月単価60万〜100万円以上)、柔軟な働き方(リモート、週3稼働なども可能)、スキルの市場価値を直接実感できる、時間と場所の自由などのメリットがあります。一方で、収入の不安定性、社会保障の薄さ(年金、健康保険)、営業活動や事務作業の負担、孤独感などのデメリットもあります。
成功するためには
最低3年以上の実務経験、特定分野での専門性や強み、案件獲得ルート(人脈、エージェントの活用)、高い自己管理能力、最低6ヶ月分の生活費の貯蓄などの条件が必要です。
【選択肢5】IT業界を完全に離れる
こんな人向け:Aグループ診断が多く、IT業界自体に疲弊している人
年収ダウンの可能性(20〜30%減も覚悟が必要)、新しい分野でゼロから学び直す覚悟、年齢と転職市場(20代後半までが有利、30代前半まで可能性あり)などを考慮する必要があります。
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