システムエンジニアがしんどい7つの原因と抜け出す方法【厚労省データで検証】

「システムエンジニアの仕事がしんどい」という悩みは、決して個人的な問題ではありません。

労働基準法などの関連法令や、厚生労働省の統計データに基づくと、情報通信業の労働実態には構造的な課題が存在しています。

本記事では、SEがしんどいと感じる7つの根本原因を分析今日から実行できる5つの具体的な対処法と、環境を変えるための職場選びのポイントまで、実践的な情報を提供します。

しんどさの正体を理解し、適切な対策を講じることで、エンジニアとして長く活躍できる道を見つけましょう。

1. システムエンジニアがしんどいと感じる7つの原因

システムエンジニアとして働く中で「しんどい」と感じる瞬間は、多くの現場で共通しています。

その背景には、個人の能力や努力不足ではなく、IT業界特有の構造的な問題が存在します。ここでは、SEが直面する7つの主要な原因を、客観的なデータと実態に基づいて解説します。

残業・休日出勤が恒常化している

システムエンジニアの労働時間の長さは、業界全体の課題として認識されています。

厚生労働省「毎月勤労統計調査（令和5年度）」によれば、情報通信業の月間平均実労働時間は157.3時間となっており、全産業平均と比較しても決して短くありません。

この数字は平均値であるため、プロジェクトの繁忙期にはさらに長時間労働が常態化します。

特にシステムのリリース前や年度末といった特定時期には、月80時間を超える残業が発生するケースも珍しくありません。過労死ラインとされる月80時間の残業は、健康への深刻なリスクを伴います。

出典：厚生労働省「毎月勤労統計調査」

繁忙期に発生する長時間労働の実態

ウォーターフォール開発では、上流工程での遅延が後工程に波及し、最終的にテスト工程やリリース直前のエンジニアに負荷が集中する構造があります。

プロジェクトが予定通りに進まないケースでは、納期を死守するために深夜残業や休日出勤が求められます。

36協定の特別条項により、原則として年6ヶ月までは月45時間を超える時間外労働が可能ですが、これには「年720時間以内」「複数月平均80時間以内（休日労働含む）」などの厳格な上限規制（罰則付き）が課されます。

実際の現場では特別条項が恒常的に適用されている企業も存在します。このような環境では、心身の健康を保つことが極めて困難になります。

突発的なトラブル対応が生活リズムを崩す

システムエンジニアの業務では、予測不可能なトラブル対応も大きなストレス要因です。本番環境でのシステム障害が発生すれば、深夜や休日であっても即座に対応が求められます。

オンコール体制を取っている企業では、24時間いつ呼び出されるか分からないという精神的なプレッシャーが続きます。

休日であっても携帯電話を手放せず、真の意味での休息が取れないという状況は、ワークライフバランスを著しく損ないます。

納期プレッシャーが精神的に重い

システム開発において、納期は絶対的な制約条件として機能します。

契約で定められた納期を守れない場合、損害賠償や信頼失墜といった重大なリスクが発生するため、現場のエンジニアには強烈なプレッシャーがかかります。

特に受託開発の現場では、クライアントとの契約が固定されているため、仕様変更や追加要求が発生しても納期延長が認められないケースが多く見られます。

結果として、限られた時間内で要求を満たすために、エンジニア個人の献身的な努力に依存する構造が生まれています。

クライアントの仕様変更が頻発する理由

要件定義段階で仕様が曖昧なまま開発がスタートすると、後工程で「イメージと違う」という理由で大幅な変更要求が発生します。

ビジネス環境の急速な変化により、プロジェクト開始時には想定していなかった機能が突然必要になることもあります。

日本の受託開発における商習慣では、契約書で定義された「スコープ（業務範囲）」の解釈を巡り、クライアントの要望を断りにくい力関係が存在するケースが見られます。

「技術的には可能」と一度でも回答してしまうと、その後の追加開発も引き受けざるを得ない状況に追い込まれるケースが多く見られます。

遅延が許されないプロジェクトの重圧

契約上のペナルティ条項が厳しく設定されているプロジェクトでは、1日の遅延が数百万円単位の損害につながる可能性があります。

このような状況では、エンジニア個人に「何としてでも間に合わせる」という無言の圧力がかかります。

さらに、遅延は次工程や他チームにも影響を及ぼすため、「自分のせいでチーム全体に迷惑をかけられない」という責任感が、過度なストレスとなって蓄積していきます。

技術の進化に追いつくための学習負担が大きい

IT業界における技術の進化スピードは、他の業界と比較しても圧倒的に速いのが特徴です。

クラウドサービス、AI・機械学習、コンテナ技術、マイクロサービスアーキテクチャなど、次々に新しい概念や技術が登場し、数年前に習得したスキルが陳腐化するリスクが常に存在します。

企業が提供する研修制度だけでは最新技術をカバーしきれないため、多くのエンジニアが業務時間外に自主的な学習を行っています。

この「見えない労働時間」が、SEのしんどさを増幅させる要因となっています。

年代別に見る技術キャッチアップの課題

20代のエンジニアは、基礎的な技術の習得と並行して新技術もキャッチアップする必要があるため、学習すべき範囲が膨大になります。

プログラミング言語、フレームワーク、データベース、ネットワークといった基礎技術を固めながら、クラウドやDevOpsといった現代的な技術も学ばなければなりません。

30代になると、マネジメント業務が増える一方で、技術的な優位性を保つための学習時間を確保することが困難になります。

家庭を持つエンジニアにとっては、プライベートの時間を学習に充てることへの葛藤も生じます。40代以降は、長年の経験が通用しなくなることへの不安が強まります。

レガシーシステムの保守で培ったスキルが、モダンな開発環境では活かしにくいという現実に直面するケースも少なくありません。

業務時間外の学習が当たり前になっている現実

多くのIT企業では、エンジニアの自己学習が暗黙の前提となっています。

技術書の購入費用や資格取得費用を一部補助する制度はあっても、学習時間そのものは業務時間外に個人の時間を使うことが期待されています。

特に、企業が次のプロジェクトで新技術を採用する際、「事前に学習しておくように」という指示が出されることもあります。

このように、自己投資という名目で個人に負担が転嫁される構造が、精神的・時間的な疲弊を招いています。

給与が仕事量に見合わない

システムエンジニアの給与水準については、厚生労働省の公式な職業情報提供サイト「job tag」にデータが掲載されています。

同サイトによれば、システムエンジニアの平均年収は約550万円とされていますが、これはあくまで全体の平均値であり、企業規模や商流ポジションによって大きな格差が存在します。

なお、2021年から全面適用された「同一労働同一賃金」の原則により、不合理な待遇差は是正の対象となっています。

出典:厚生労働省 job tag

多重下請け構造が生む賃金格差

元請け企業のシステムエンジニアと、3次請け企業のエンジニアでは、同じスキルレベルであっても年収に200万円以上の差が生じることがあります。

これは単なる企業規模の違いではなく、商流における立ち位置が直接的に給与に反映される構造です。

SIer業界のピラミッド構造では、上位企業がプロジェクト管理や顧客折衝を担い、下位企業が実際のプログラミングやテストを担当します。

しかし、利益配分は上位企業に厚く、実際に手を動かしているエンジニアの取り分は薄くなる傾向があります。

スキルアップしても給与が上がりにくい理由

SES（システムエンジニアリングサービス）企業に所属している場合、客先での評価が高くても、自社との契約単価がすぐに上がるわけではありません。

単価交渉は年に1回程度しか行われないケースが多く、市場価値の上昇が給与に反映されるまでにタイムラグが生じます。

受託開発企業においても、プロジェクトの利益率や会社全体の業績が優先され、個人のスキル向上が直接的な昇給につながりにくい評価制度を採用している企業が少なくありません。

このような状況が、「努力しても報われない」という不満を生む要因となっています。

クライアントと現場の板挟みで疲弊する

システムエンジニアは、クライアントの要望と開発現場の実態との間で調整役を担うことが多く、この板挟み状態が大きなストレス源となっています。

クライアントは「できるだけ早く、安く、多くの機能を」と求める一方、開発現場には「品質を保ちながら、技術的に実現可能な範囲で」という制約があります。

この両者のギャップを埋める役割がSEに求められますが、十分な権限や裁量が与えられていないケースも多く見られます。

無理な要求を断れない力関係

発注者と受注者という力関係の中で、技術的に困難な要求や不合理な納期設定であっても、「できません」と明確に断ることが難しい状況があります。

特に、長期的な取引関係を維持したい営業部門からの圧力により、現場の意見が通らないケースが頻発します。

「お客様第一」という理念が、現場のエンジニアに無理を強いる免罪符として機能してしまう構造的な問題が存在します。

結果として、技術的に実現不可能な要件を「何とかする」ために、エンジニアが身を削って対応せざるを得ない状況が生まれています。

社内の営業部門との認識ズレ

営業担当者が技術的な難易度を正しく理解しないまま案件を受注してしまい、開発現場に無理な工数や納期が押し付けられるケースがあります。

見積もり段階での工数算定が甘く、実際の開発が始まってから「こんなに時間がかかるとは思わなかった」という事態に陥ることも少なくありません。

営業と開発の間で情報共有が不足していると、クライアントへの説明内容と実際の仕様に齟齬が生じ、その修正対応が現場エンジニアの負担となります。

組織内のコミュニケーション不全が、現場のしんどさを増幅させる構造となっています。

SES・客先常駐特有の疎外感と孤独がしんどい

SES（システムエンジニアリングサービス）準委任契約等）で客先に常駐する働き方は、IT業界で広く採用されていますが、この就業形態特有のメンタル面での負担が存在します。

自社のオフィスではなく顧客企業に常駐するため、所属企業への帰属意識を持ちにくく、「自分はどこの会社の人間なのか」というアイデンティティの揺らぎを感じるエンジニアが少なくありません。

客先で「よそ者」扱いされる精神的負担

客先企業の正社員とSESで派遣されているエンジニアとの間には、目に見えない壁が存在することがあります。

社内イベントや情報共有の場から意図的に除外されたり、重要な意思決定のプロセスに参加できなかったりすることで、疎外感を抱くケースが報告されています。

待遇面でも差が生じることがあり、同じフロアで働いていても福利厚生や休暇制度が異なるため、不公平感を感じる場面があります。

このような「居場所のなさ」は、日々の業務における精神的なストレスとして蓄積していきます。

案件ガチャによるキャリア形成の不安定さ

SESでは、プロジェクトが終了するたびに次の案件にアサインされますが、この案件選択を自分でコントロールできないことが大きな不安要因となっています。

スキルが身につく先進的な技術を使う案件に配属されることもあれば、レガシーシステムの単純な保守作業に従事することもあります。

この「案件ガチャ」の結果次第で、キャリアの方向性が大きく左右されるため、長期的なキャリアビジョンを描くことが困難になります。

チーム内の人間関係ストレスが蓄積する

システム開発はチームで行う仕事であるため、メンバー間の人間関係が業務効率や精神的な負担に直結します。

コミュニケーション不足によるバグの発生や手戻り、スキルレベルの差による負荷の偏りなど、チーム内の問題が個人のストレスとして現れます。

特に、リモートワークが普及した現在では、対面でのコミュニケーション機会が減少し、孤立感を抱くエンジニアが増加しています。

技術力の差がチーム内に生む軋轢

チーム内でスキルレベルに大きな差がある場合、できるエンジニアに仕事が集中する構造が生まれます。

経験豊富なメンバーは、自分の担当業務に加えて、後輩のコードレビューや技術指導、さらにはバグ修正の肩代わりまで求められることがあります。

本来であれば組織的に教育体制を整えるべきところ、現場の善意や責任感に依存する形で教育コストが個人に転嫁されると、不公平感と疲弊感が蓄積します。

リモートワークで増す孤独とコミュニケーション不全

リモートワークでは、雑談や立ち話といった非公式なコミュニケーション機会が失われます。

これにより、ちょっとした疑問点を気軽に相談できず、一人で悩む時間が増えてしまいます。

テキストベースのコミュニケーションでは、意図が正確に伝わらず誤解が生じやすく、人間関係のトラブルに発展するリスクもあります。

また、リモート環境ではメンタル不調の兆候を周囲が察知しにくく、深刻化してから問題が顕在化するケースも報告されています。

2. 厚労省データで見るシステムエンジニアがしんどい労働実態

「自分の職場環境は普通なのか、それとも異常なのか」という疑問に対して、客観的な判断材料を提供するのが公的統計データです。

ここでは、厚生労働省が公開している各種調査データをもとに、システムエンジニアの労働実態を数値で確認していきます。

SEの平均労働時間と残業の実態

厚生労働省「毎月勤労統計調査（令和5年度）」によれば、情報通信業の月間平均実労働時間は157.3時間となっています。

この数字は所定内労働時間と所定外労働時間（残業）を合計したものです。

全産業平均と比較すると、情報通信業の労働時間は特別に長いわけではありませんが、重要なのは「平均値」の背後に隠れた実態です。

プロジェクトの繁閑により労働時間が大きく変動するため、繁忙期には月200時間を超える実労働が発生するケースも珍しくありません。

出典：厚生労働省「毎月勤労統計調査」

情報通信業の労働時間推移

過去5年間のデータを見ると、情報通信業の労働時間は大きな変動なく推移しています。働き方改革関連法の施行後も、劇的な改善は見られていないのが実情です。

繁忙期と通常期の労働時間の差は、プロジェクトの性質によって異なります。新規システム開発の場合、リリース直前の数ヶ月間は恒常的に長時間労働が続く傾向があります。

時間外労働の実態

所定外労働時間（残業時間）の平均は、調査によって月20〜23時間程度とされていますが、これはあくまで全体平均です。プロジェクト型の業務では、特定の時期に残業が集中する特徴があります。

労働基準法における36協定では、原則として月45時間、年360時間が残業の上限とされていますが、特別条項を結んでいる企業では年6ヶ月まで上限を超える残業が可能です。

過労死ラインとされる月80時間の残業に達しているかどうかが、労働環境の健全性を判断する一つの基準となります。

SEの平均年収と賃金水準

厚生労働省が運営する職業情報提供サイト「job tag」では、システムエンジニアの平均年収が約550万円と示されています。

ただし、この数字には年齢、経験年数、企業規模、地域による大きなばらつきがあることを理解しておく必要があります。

賃金構造基本統計調査のデータを詳しく見ると、年齢や経験年数による賃金カーブ、企業規模による格差が明確に現れています。

出典：厚生労働省 job tag

年齢別・経験年数別の賃金推移

20代のシステムエンジニアの平均年収は350万円〜450万円程度、30代では450万円〜600万円程度、40代では550万円〜700万円程度という傾向が見られます。

ただし、これらはあくまで平均的な数字であり、商流ポジションや企業の規模によって大きく異なります。

経験年数が増えるにつれて賃金は上昇しますが、他の専門職と比較すると賃金カーブの伸びが緩やかであるという指摘もあります。

特に、中小規模のSES企業では、経験を積んでも大幅な昇給が期待しにくい構造的な問題が存在します。

企業規模別の賃金格差

厚生労働省の統計データでは、従業員数1,000人以上の大企業と、100人未満の小企業との間で、平均年収に100万円以上の差が生じることが示されています。

この格差は単なる企業規模の違いではなく、前述した多重下請け構造における商流ポジションの違いが反映された結果でもあります。

元請け企業と下請け企業では、同じスキルレベルのエンジニアでも受け取る報酬に大きな開きがあります。

有給休暇取得率と離職率

厚生労働省「就労条件総合調査」によれば、情報通信業의有給休暇取得率は全産業平均と比較してやや高い水準にあるとされています。

しかし、これも企業やプロジェクトの状況によって大きく異なります。繁忙期には有給休暇を申請しづらい雰囲気がある職場も多く、数字上の取得率と実際の取得しやすさには乖離があることに注意が必要です。

厚生労働省「雇用動向調査」では、情報通信業の離職率データも公開されています。IT業界は他業種と比較して転職が活発な業界であり、特に若年層の離職率が高い傾向があります。

出典：厚生労働省「就労条件総合調査」　厚生労働省「雇用動向調査」

年代別・勤続年数別の離職率

入社3年以内の離職率は、IT業界全体で約30%程度とされており、特にSES企業ではこの数字がさらに高くなる傾向があります。

20代のエンジニアは、キャリアの方向性を見極める過程で転職を選択するケースが多く見られます。

30代になると、結婚や子育てといったライフイベントとの兼ね合いで、ワークライフバランスを重視した転職を行う層が増加します。

40代では、マネジメント職への転換や、より安定した環境を求めての転職が主な離職理由となっています。

離職理由としては、「労働時間・休日・休暇の条件」「賃金の条件」「仕事の内容・適性」が上位を占めています。これらは、本記事で解説してきた「しんどさの原因」と直結する要素です。

3. システムエンジニアがしんどくても続けられる理由

ここまで、システムエンジニアの仕事がしんどい理由を詳しく見てきましたが、それでも多くのエンジニアがこの職種を選び、長く働き続けている事実があります。

その背景には、SEという仕事ならではの魅力と将来性が存在します。

高い将来性と安定した需要がある

経済産業省が公表している「IT人材需給に関する調査」では、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足すると予測されています。

デジタルトランスフォーメーション（DX）の推進により、あらゆる産業でITシステムの重要性が高まっており、システムエンジニアの需要は今後も拡大し続ける見通しです。

IPA（情報処理推進機構）のIT人材動向調査でも、特にクラウド、AI、セキュリティ分野のエンジニアが不足しているというデータが示されています。

技術的なスキルを持つエンジニアは、今後も安定した雇用と高い市場価値を維持できる可能性が高いと言えます。

出典：経済産業省「IT人材需給に関する調査」 IPA（情報処理推進機構）

2030年に向けたIT人材需給予測

経済産業省とIPAの予測によれば、特に不足が深刻化するのは、上流工程を担える人材やDX推進を主導できる人材です。

単純なプログラミングスキルだけでなく、ビジネス理解と技術を橋渡しできる能力を持つエンジニアの価値が今後さらに高まると予想されています。

AIやIoT、ブロックチェーンといった先端技術領域では、専門知識を持つエンジニアが圧倒的に不足しています。これらの分野でスキルを磨けば、長期的に市場価値を維持できる可能性が高いくなります。

AI時代でも価値が高まるSEのスキル

「AIによってプログラマーの仕事がなくなる」という懸念が語られることがありますが、システムエンジニアの本質的な価値は、単にコードを書くことだけにあるわけではありません。

要件定義や設計といった上流工程では、クライアントのビジネス課題を理解し、それを技術的な解決策に落とし込む能力が求められます。

この「ビジネスと技術の橋渡し」は、人間にしかできない高度な判断とコミュニケーションを必要とします。

AIは強力なツールとして開発効率を高める存在ですが、AIを適切に活用し、システム全体を設計・管理するのは人間のエンジニアです。

つまり、AI時代においても「AIを使いこなす側」のスキルを持つSEの価値は、むしろ高まると考えられます。

専門スキルの市場価値と転職のしやすさ

厚生労働省「一般職業紹介状況」のデータを見ると、IT技術者の有効求人倍率は常に高水準を維持しています。

これは、求職者1人に対して複数の求人がある状態を意味しており、エンジニアは他の職種と比較して転職市場で有利な立場にあると言えます。

システムエンジニアのスキルは、業界を超えて活用できる汎用性の高さも特徴です。

金融、製造、流通、医療、公共など、あらゆる業界でITシステムが必要とされているため、キャリアの選択肢が広いという強みがあります。

出典：厚生労働省「一般職業紹介状況」

IT技術者の有効求人倍率の高さ

有効求人倍率が全職種平均で1.0〜1.2倍程度であるのに対し、IT技術者は2倍を超える水準で推移することも珍しくありません。

これは慢性的な人材不足を反映したものであり、エンジニアにとっては転職市場での優位性を意味します。

現在の職場環境がしんどくても、スキルさえ身につけていれば、より良い条件の企業に転職できる可能性が高いという点は、他の職種にはない大きなメリットです。

業界・業種を超えて活躍できる汎用性

システムエンジニアのスキルは、特定の業界に縛られません。金融システムの開発経験があれば製造業のシステムにも応用できますし、Webアプリケーションの開発スキルは業種を問わず必要とされます。

さらに、プログラミング言語やフレームワークといった技術スキルに加えて、プロジェクト管理能力やコミュニケーション能力といった汎用的なスキルも同時に磨かれます。

これらのスキルの組み合わせが、市場における希少価値を生み出します。

システム完成時の達成感と社会貢献実感

システムエンジニアという仕事の大きな魅力の一つは、自分が作ったシステムが実際に稼働し、多くの人々の生活や業務を支えるという実感を得られることです。

プロジェクトが困難であればあるほど、完成したときの達成感は大きくなります。

チームメンバーと協力して技術的な課題を乗り越え、無事にシステムをリリースできたときの喜びは、SEという仕事を続ける大きな原動力となります。

自分の仕事が社会に与える影響の大きさ

医療システムを開発すれば、患者の命を救う現場を支えることができます。

交通システムを開発すれば、多くの人々の安全な移動を支えます。金融システムを開発すれば、経済活動の基盤を支えることになります。

自分の作ったシステムが社会インフラの一部として機能し、エンドユーザーから直接感謝の言葉をもらえることもあります。

このような社会貢献の実感は、他の職種ではなかなか得られない、SEならではのやりがいです。

技術的課題を解決したときの知的興奮

複雑なバグの原因を特定し、見事に解決できたとき。パフォーマンスのボトルネックを発見し、劇的な改善を実現できたとき。新しい技術を習得し、実際のプロジェクトで成功裏に実装できたとき。

こうした瞬間に得られる知的な興奮と満足感は、エンジニアという仕事の本質的な魅力です。

常に新しい技術や手法が登場し、学び続けることが求められる環境だからこそ、成長の実感を得やすいという側面もあります。

4. システムエンジニアのしんどさから抜け出す5つの方法

しんどい状況を改善するためには、具体的な行動を起こすことが不可欠です。

ここでは、今日から実行できるセルフケアから、根本的な環境改善まで、段階的なアプローチを5つのステップで解説します。

1. まずは休息を最優先する

しんどさが限界に達している状態では、冷静な判断ができません。まず最優先すべきは、心身の健康を回復させるための休息です。

厚生労働省は労働安全衛生法に基づき、企業に対してメンタルヘルスケアの実施を求めています。ストレスチェック制度や産業医面談といった制度を積極的に活用しましょう。

有給休暇の取得は労働者の権利です。繁忙期であっても、健康を害してしまっては元も子もありません。

まとまった休暇を取り、心身をリフレッシュさせることが、長期的なキャリアを続けるための基盤となります。

出典：厚生労働省「労働安全衛生法」「メンタルヘルス対策」

心身の健康を取り戻すための具体的方法

睡眠時間の確保は最も基本的かつ重要な要素です。最低でも7時間の睡眠を確保し、質の高い睡眠を取ることで、心身の回復力が高まります。

適度な運動習慣も効果的です。週に2〜3回、30分程度のウォーキングやジョギングを行うだけでも、ストレス解消と気分転換に大きな効果があります。

バランスの取れた食事も忘れてはいけません。忙しさからコンビニ食やインスタント食品に頼りがちですが、栄養バランスの偏りは疲労の蓄積につながります。

メンタルヘルスの専門家に相談する重要性

「まだ大丈夫」と自分に言い聞かせているうちに、メンタル不調が深刻化するケースは少なくありません。

不眠、食欲不振、気分の落ち込みが2週間以上続いている場合は、早めに専門家に相談することが重要です。

企業の産業医面談を利用すれば、守秘義務のもとで相談でき、必要に応じて就業上の配慮を受けることも可能です。

厚生労働省が運営する「こころの耳」では、電話やメール、SNSでの相談窓口が用意されています。匿名で相談できるため、気軽に利用できます。

症状が重い場合は、心療内科や精神科の受診を検討しましょう。適切な治療を受けることで、早期回復が期待できます。

出典：厚生労働省「こころの耳」

2. 「何が」しんどいのか原因を特定する

漠然と「しんどい」と感じている状態から、具体的に「何が」しんどいのかを特定することが、解決策を見つける第一歩です。

労働時間が問題なのか、人間関係が問題なのか、技術力の不足が問題なのか。それとも、給与や評価制度への不満なのか。問題を分類することで、対処の方向性が見えてきます。

しんどさの原因を自己分析する方法

日々の業務記録をつけ、どのような場面でストレスを感じるかを記録してみましょう。

「〇〇のときに特につらい」というパターンが見えてくれば、原因の特定につながります。ストレス源を「時間」「人」「技術」の3軸で分類してみることも有効です。

長時間労働が原因なのか、特定の人物との関係が原因なのか、技術的な不安が原因なのかによって、取るべき対策は異なります。

さらに、その問題が「個人で解決可能」なのか、「環境要因」なのか、「業界の構造的問題」なのかを判断します。個人で解決可能な問題であれば、スキルアップや働き方の工夫で改善できます。

環境要因であれば、社内異動や配置転換で対応できるかもしれません。構造的問題であれば、転職を視野に入れる必要があります。

上司や人事への効果的な相談の仕方

問題を特定できたら、一人で抱え込まず、上司や人事担当者に相談しましょう。その際、感情的にならず、事実ベースで伝えることが重要です。

「つらいです」だけではなく、「月の残業時間が平均80時間を超えており、健康面での不安があります」といった具体的な数字や状況を示すと、相手も対応しやすくなります。

可能であれば、「プロジェクトの工程を見直してほしい」「チーム内の役割分担を調整してほしい」といった具体的な改善案を持参すると、建設的な議論につながります。

1on1ミーティングや定期的な評価面談のタイミングを活用し、落ち着いて話せる環境で相談することをお勧めします。

3. 戦略的なスキルアップで市場価値を高める

技術的なスキルを磨くことは、現在の職場でのパフォーマンス向上だけでなく、転職市場での選択肢を広げることにもつながります。

IPA（情報処理推進機構）が策定している「ITスキル標準（ITSS）」は、IT人材に求められるスキルを体系的に整理したものです。

自分の現在地を把握し、目指すべき方向性を設定する際の参考になります。需要が高い技術分野にフォーカスしてスキルを磨けば、より良い条件での転職や、社内でのキャリアアップが実現しやすくなります。

出典：IPA「ITスキル標準（ITSS）」

需要の高い技術スキルの習得優先順位

現在最も需要が高い技術スキルとしては、クラウドサービス（AWS、Azure、Google Cloud Platform）の知識が挙げられます。

オンプレミスからクラウドへの移行は多くの企業で進行しており、クラウドアーキテクトやクラウドエンジニアの求人は増加傾向にあります。

AI・機械学習の基礎知識も、今後ますます重要になります。データサイエンティストやAIエンジニアを目指さなくても、基本的な概念を理解しておくことで、システム設計の幅が広がります。

セキュリティスキルも高い需要があります。情報処理安全確保支援士などの資格取得を通じて、専門性を高めることができます。

コンテナ技術（Docker）やオーケストレーションツール（Kubernetes）といったモダンな開発環境のスキルも、現場で即戦力として評価されます。

上流工程スキルを身につけるステップ

プログラミングスキルだけでなく、要件定義や設計といった上流工程のスキルを身につけることで、キャリアの幅が大きく広がります。

要件定義を学ぶには、ビジネス分析の基礎知識や、クライアントとのコミュニケーション技術が必要です。ユーザーの本当のニーズを引き出し、それを技術的な要件に落とし込む能力は、経験を通じて磨かれます。

システム設計では、アーキテクチャの選定、データベース設計、非機能要件の定義など、技術的な深い知識が求められます。設計ドキュメントを実際に書く経験を積むことが重要です。

プロジェクトマネジメントスキルも上流工程では欠かせません。PMBOKやアジャイル開発手法の知識を身につけ、実際のプロジェクトでリーダーシップを発揮する経験を積みましょう。

国家資格取得が本当に役立つケース

IPA（情報処理推進機構）が実施する「情報処理技術者試験」は、体系的な知識を身につける上で有効です。基本情報技術者試験、応用情報技術者試験は、エンジニアとしての基礎力を証明する資格として広く認知されています。

高度試験（ネットワークスペシャリスト、データベーススペシャリスト、情報処理安全確保支援士など）は、特定分野の専門性を示すことができます。

特に、情報処理安全確保支援士は国家資格として法的な位置づけがあり、セキュリティ分野でのキャリアに有利です。

ただし、実務経験のない状態で資格だけを取得しても、転職市場では限定的な評価にとどまります。資格は知識の証明であり、実務能力の証明ではありません。

実際のプロジェクトでの経験と組み合わせることで、初めて真の価値が発揮されます。

出典：IPA「情報処理技術者試験」

4. 現在の職場環境内で改善を試みる

転職を考える前に、現在の職場内で環境を改善できる可能性を探ることも重要です。

社内異動や案件アサインの交渉、チーム内のコミュニケーション改善など、できることは意外と多くあります。

社内異動で環境を変えるアプローチ

多くの企業では、社内公募制度や異動希望制度が用意されています。

受託開発部門から自社サービス開発部門への異動、開発部門から社内SE部門への異動など、同じ会社内でも部署が変われば働き方や業務内容は大きく変わります。

社内SEは、自社の業務システムを担当するため、客先常駐がなく、比較的安定した環境で働けることが多いです。納期プレッシャーも受託開発に比べて緩やかな傾向があります。

異動希望を出す際は、現在の部署での実績をアピールしつつ、異動先でどのように貢献できるかを具体的に伝えることが効果的です。

プロジェクト・案件選択で主体性を持つ方法

SES企業に所属している場合でも、希望する案件の方向性を明確に伝えることで、ある程度のコントロールが可能になることがあります。

「Webアプリケーション開発を経験したい」「上流工程に携わりたい」「新しい言語・フレームワークを使う案件がいい」といった具体的な希望を、営業担当者や上司に継続的に伝えましょう。

自分のスキルセットと市場価値を正しく理解し、それに見合った案件を選ぶ交渉力を持つことも重要です。単価交渉の際には、自分が提供できる価値を明確に示すことが求められます。

チーム内のコミュニケーション改善施策

チーム内の人間関係を改善することも、しんどさを軽減する有効な方法です。定期的な1on1ミーティングを設定し、お互いの悩みや課題を共有する場を作りましょう。

ペアプログラミングやモブプログラミングといった開発手法を取り入れることで、知識の共有とチーム内のコミュニケーションが促進されます。

心理的安全性の高いチームを作ることも重要です。失敗を責めない文化、わからないことを気軽に質問できる雰囲気を醸成することで、チーム全体のストレスレベルが下がります。

5. 環境を変える決断をする（転職・独立）

社内での改善努力を尽くしても状況が変わらない場合、あるいは心身の健康が深刻に損なわれている場合は、環境を変える決断が必要です。

転職は決して「逃げ」ではありません。自分のキャリアと健康を守るための前向きな選択です。厚生労働省が運営するハローワークや、IT業界専門の転職エージェントを活用して、より良い環境を探しましょう。

出典：厚生労働省「ハローワーク」

転職を検討すべきタイミングの見極め方

以下のような状況に当てはまる場合は、真剣に転職を検討すべきタイミングと言えます。

現職での改善可能性が完全にゼロである場合

上司や人事に相談しても全く対応してもらえない、構造的な問題が根深く個人の力では変えられない状況です。

心身の健康を害している場合

不眠や体調不良が続いている、うつ症状が出ているといった状況では、これ以上無理を続けるべきではありません。

キャリア成長が完全に停滞している場合

数年間同じような業務しか任されず、新しいスキルを身につける機会がない状況では、市場価値の低下リスクがあります。

年齢とスキルのバランスを考えると、20代後半から30代前半は転職市場で最も評価されやすい時期です。ただし、40代以降でも、専門性やマネジメント経験があれば十分に転職可能です。

SESから受託、受託から自社開発へのキャリアパス

SES企業から受託開発企業へ、さらに受託開発企業から自社開発企業へとステップアップしていくキャリアパスは、多くのエンジニアが目指す方向性です。

SESでは、様々なプロジェクトを経験できる一方、キャリアの方向性が定まりにくく、給与も上がりにくい傾向があります。

受託開発企業に転職することで、プロジェクトの全体像を把握しやすくなり、上流工程の経験も積みやすくなります。

自社開発企業では、自社のプロダクトに長期的に関わることができ、裁量権も大きくなります。ユーザーからのフィードバックを直接受けながら開発できるため、やりがいも大きいです。

ただし、それぞれの業態には一長一短があります。自社開発企業では特定技術スタックに限定される可能性があり、幅広い経験を積みにくい側面もあります。自分のキャリアゴールに合わせて選択することが重要です。

フリーランス・業務委託という選択肢

十分なスキルと実績があれば、フリーランスとして独立する選択肢もあります。フリーランスの最大のメリットは、案件や働き方を自分で選べる裁量権の大きさです。報酬も、企業に所属している場合より高くなる可能性があります。

一方で、収入の不安定さ、社会保障の薄さ、営業活動の負担といったデメリットも存在します。確定申告などの事務作業も自分で行う必要があります。

フリーランスとして成功するためには、安定的に案件を獲得できるネットワークやスキル、そして自己管理能力が不可欠です。独立前には、少なくとも6ヶ月分の生活費を確保しておくことをお勧めします。

5. システムエンジニアがしんどさを軽減できる職場環境の見分け方

転職や就職を検討する際、求人票の表面的な情報だけでは、実際の労働環境を正確に判断することは困難です。

ここでは、入社後に「こんなはずではなかった」と後悔しないための、職場環境の見極めポイントを解説します。

企業の商流ポジションを確認する

IT業界における多重下請け構造は、給与水準や働き方に直接影響します。その企業が元請け（プライム）なのか、2次請け・3次請けなのかを見極めることが重要です。

元請け・2次請け・3次請けの見分け方

求人票や企業のホームページで、「元請け案件比率80%以上」といった記載があるかを確認しましょう。

また、取引先企業名が具体的に公開されているかどうかも一つの指標です。大手企業名が明記されている場合、直接取引している可能性が高いです。

面接では、「どのような立場でプロジェクトに参画しますか」「クライアントと直接やり取りする機会はありますか」といった質問をすることで、実際の商流ポジションを確認できます。

2次請け・3次請けの企業が必ずしも悪いわけではありませんが、一般的に元請け企業の方が給与水準が高く、プロジェクト全体を俯瞰する経験を積みやすい傾向があります。

自社サービス・自社開発企業の優位性

自社でサービスやプロダクトを開発・運営している企業は、受託開発企業とは働き方が大きく異なります。

納期プレッシャーは存在するものの、クライアントからの理不尽な要求に振り回されることは少なくなります。

自社サービス企業では、長期的な視点でプロダクトを育てることができ、技術的負債の解消やリファクタリングにも時間を割けるケースが多いです。エンドユーザーの反応を直接見ながら開発できるため、やりがいも大きいです。

探し方

IT業界の求人サイトで「自社サービス」「自社プロダクト」といったキーワードで検索する方法があります。企業のホームページで、提供しているサービスが明確に紹介されているかも確認ポイントです。

労働条件と実態のギャップを見抜く

求人票に記載されている労働条件と、実際の働き方には乖離があることがあります。厚生労働省が定める労働基準法で保障されている権利を正しく理解し、違法な労働条件を見抜く目を養いましょう。

出典:厚生労働省「働き方改革」

求人票と実態のギャップを見抜く方法

「裁量労働制」や「みなし残業」という制度は、正しく運用されれば問題ありませんが、悪用されているケースもあります。

みなし残業が月45時間以上設定されている場合は、恒常的な長時間労働が前提となっている可能性があります。

面接では、「平均的な月の残業時間はどれくらいですか」「繁忙期の残業時間はどれくらいですか」といった具体的な質問をしましょう。

回答が曖昧だったり、「プロジェクトによる」とだけ答えられた場合は、注意が必要です。

違法な労働条件の例としては、36協定を結んでいないのに残業を強要する、残業代を支払わない、有給休暇の取得を拒否するといったケースがあります。これらは明確な法令違反です。

有給取得率と実際の取りやすさを確認する

求人票に「有給取得率70%」と書かれていても、実際に自分が希望するタイミングで取得できるかは別問題です。

繁忙期には有給申請が可能かどうか、連続して休暇を取得できるかといった点を確認しましょう。

面接や職場見学の際に、現場の社員に直接「有給は取りやすいですか」「どのようなタイミングで休暇を取っていますか」と質問することで、実態を把握できます。

技術的成長環境が整っているかを見極める

長期的なキャリアを考えるとき、その企業で技術的に成長できるかどうかは極めて重要な判断基準です。

技術スタックの新しさと学習機会

企業が採用している技術スタックを確認しましょう。レガシーな技術のみを扱っている企業では、市場価値の高いスキルを身につけることが困難です。

モダンな言語やフレームワーク、クラウドサービスを積極的に導入している企業では、最新技術に触れる機会が多くなります。企業のテックブログやGitHubアカウントがあれば、技術への姿勢を確認できます。

社内勉強会やLT（Lightning Talk）会の開催頻度も重要な指標です。技術的な知識共有が活発な企業文化があるかどうかを見極めましょう。

外部カンファレンスへの参加支援制度があれば、最新のトレンドをキャッチアップしやすくなります。

教育投資と成長支援制度の確認

研修予算が社員一人あたりどれくらい確保されているかを確認しましょう。年間数万円程度しかない企業と、数十万円確保している企業では、学習機会に大きな差があります。

メンター制度やOJT体制が整備されているかも重要です。特に若手エンジニアにとって、経験豊富な先輩から直接指導を受けられる環境は、成長速度に大きく影響します。

書籍購入補助や資格取得支援の内容も確認ポイントです。受験料の全額補助、合格報奨金の支給といった制度があれば、自己研鑽を後押しする企業文化があると判断できます。

キャリアパスの透明性を確認する

入社後のキャリアパスが明確に示されているかどうかは、長期的に働く上で重要な要素です。

評価制度と昇給・昇格の仕組み

評価基準が明文化されており、社員に公開されているかを確認しましょう。「何をすれば評価されるのか」が不透明な企業では、努力の方向性を見失いやすくなります。

年功序列なのか成果主義なのか、評価制度の基本方針を理解することも重要です。成果主義であれば、実力次第で早期昇進も可能ですが、一方でプレッシャーも大きくなります。

過去の昇給実績がどの程度開示されているかも確認ポイントです。透明性の高い企業では、標準的な昇給額や昇格モデルケースが示されています。

マネジメントとスペシャリストの両立可能性

エンジニアとしてのキャリアパスには、マネジメント職を目指す道と、技術を極めるスペシャリストとして活躍する道があります。

両方のキャリアパスが用意されている企業では、自分の適性に合わせた選択が可能です。

管理職にならなくても、高度な技術力により高収入を得られる制度があるかどうかを確認しましょう。

技術職の最高ポジションの年収レンジを聞くことで、技術者として極めることへの企業の姿勢が分かります。

ロールモデルとなる先輩社員の存在も重要です。「こういうキャリアを歩みたい」と思える人物が社内にいるかどうかは、モチベーション維持に大きく影響します。

6. システムエンジニアに向いている人・しんどいと感じやすい人

システムエンジニアという職種が万人に適しているわけではありません。

ここでは、SEに向いている人の特徴と、しんどいと感じやすい人の特徴を整理し、自己判断の材料を提供します。

ただし、「向いていない=辞めるべき」ではなく、環境選択や役割調整によって改善できる余地があることも理解しておきましょう。

システムエンジニアに向いている人の特徴

論理的思考力と問題解決能力

システムエンジニアの業務では、複雑な問題を分解して考える能力が常に求められます。「なぜこのバグが発生しているのか」を論理的に推論し、原因を特定できる人は、SEとして活躍しやすいです。

因果関係を整理し、「AならばB」という思考プロセスを自然に行える人は、要件定義や設計といった上流工程でも力を発揮します。

トラブルシューティングを「面倒な作業」ではなく「謎解きパズル」として楽しめる感覚を持っている人は、SEの仕事に適性があると言えます。

継続的な学習を苦にしない姿勢

新しい技術やフレームワークが次々に登場するIT業界では、学び続ける姿勢が不可欠です。

「知らないことを学ぶのが楽しい」と感じられる人は、技術の進化をポジティブに捉えられます。自発的に技術ブログを読んだり、オンライン学習サービスで新しいスキルを習得したりする習慣がある人は、市場価値を維持しやすいです。

変化を脅威ではなくチャンスとして受け止められるマインドセットが、長期的なキャリア継続には重要です。

コミュニケーション能力とチームワーク

システムエンジニアは孤独な作業と思われがちですが、実際にはチームでの協働が前提です。

技術的な内容を非エンジニアにもわかりやすく説明できる能力は、特に上流工程や顧客折衝において重要です。

チームメンバーと協力しながら一つのシステムを作り上げることに喜びを感じられる人は、プロジェクトでの役割を楽しめます。

後輩や経験の浅いメンバーへの教育やサポートを厭わない姿勢も、チーム全体の生産性向上に貢献します。

システムエンジニアがしんどいと感じやすい人の特徴

学習コストの高さに耐えられない

業務時間外の勉強が精神的・時間的に大きな負担となり、プライベートの時間を削ることに強いストレスを感じる人は、SEの働き方にしんどさを感じやすいです。

新技術への興味が持てず、既存の知識だけで仕事を完結させたいと考える人にとって、技術の陳腐化は大きな不安要因となります。

ただし、この特性を持つ人でも、技術的な変化が少ない保守案件や、安定した技術スタックを使い続ける企業を選ぶことで、負担を軽減できる可能性があります。

不確実性・曖昧さへの耐性が低い

明確な指示やマニュアルがないと動けない、仕様が曖昧な状態で作業を進めることに強い不安を感じる人は、SEの業務にストレスを感じやすいです。

仕様変更や追加要求に対して、柔軟に対応するよりも「最初に決めた通りに進めたい」という思考が強い場合、受託開発の現場では常にフラストレーションを抱えることになります。

トラブルが発生したときにパニックになりやすい人も、突発的な障害対応が求められるSEの仕事ではしんどさを感じやすいです。

このような特性を持つ人は、要件が明確に定義されている案件や、自社サービスで計画的に開発を進める環境を選ぶことで、ストレスを軽減できます。

対人ストレスに弱い

クライアントとの折衝や、難しい要求への対応が精神的に大きな負担となる人は、客先常駐や受託開発ではしんどさを強く感じます。

チーム内での意見対立や、コードレビューでの指摘を個人攻撃と受け取ってしまい、深く傷つきやすい人も、人間関係に疲弊しやすいです。

一人で黙々と作業することを好むタイプの人は、頻繁なミーティングやペアプログラミングといった協働スタイルにストレスを感じることがあります。

このような特性を持つ人には、社内SEとして自社の業務システムを担当する、リモートワーク中心の企業を選ぶ、あるいは比較的独立して作業できるポジションを探すといった選択肢があります。

7. システムエンジニアのしんどさに関するよくある質問

ここでは、システムエンジニアのしんどさに関してよく寄せられる質問に回答します。

システムエンジニアは本当にやめとけと言われるほどしんどいですか?

環境次第というのが正確な答えです。

厚生労働省のデータで示されたように、情報通信業の平均労働時間や離職率は、他業種と比較して極端に悪いわけではありません。

しかし、SES、受託開発、自社開発といった業態の違いや、企業の商流ポジション、プロジェクトの性質によって労働環境は大きく異なります。適切な企業選択ができれば、長く働ける職種です。

未経験からシステムエンジニアになるのはしんどいですか?

学習コストは確かに高いですが、IT人材の需要は高まっています。

経済産業省の調査でも2030年に向けて人材不足が深刻化すると予測されており、未経験者にもチャンスがあります。

適切な企業選択と計画的な学習戦略があれば、未経験からでもエンジニアとして活躍できます。IPA（情報処理推進機構）の資格を活用するなど、体系的に学習することが重要です。

SESのシステムエンジニアは特にしんどいと聞きますが本当ですか?

SES企業すべてが劣悪な環境というわけではありません。

優良なSES企業では、案件選択の自由度があり、スキルアップ支援も充実しています。

ただし、客先常駐特有の疎外感や、案件ガチャによるキャリアの不安定さは構造的な課題として存在します。

キャリア初期に様々な現場を経験する手段として活用し、一定期間で次のステップに進むという戦略的な利用が有効です。

システムエンジニアがしんどくて転職するならどの職種がおすすめですか?

SEのスキルを活かせる転職先としては、社内SE、ITコンサルタント、プロダクトマネージャーなどがあります。

社内SEは、自社の業務システムを担当するため、客先常駐がなく労働環境が安定している傾向があります。ITコンサルタントは、技術力に加えてビジネス視点が求められますが、上流工程で活躍できます。

プロダクトマネージャーは、技術とビジネスの両面からプロダクトを育てる役割です。厚生労働省のjob tagで各職業の詳細情報を確認できます。

40代のシステムエンジニアでもしんどさを軽減できる転職は可能ですか?

マネジメント経験や専門的な技術スキルがあれば、40代でも転職は十分に可能です。

年齢よりも「どのような価値を提供できるか」が重要な判断基準となります。

厚生労働省「一般職業紹介状況」のデータでも、IT技術者の有効求人倍率は高水準を維持しており、経験豊富なエンジニアへの需要は継続しています。

システムエンジニアがしんどいときメンタルヘルスケアはどうすればいいですか?

企業の産業医やカウンセラーへの相談が第一歩です。

守秘義務のもとで相談でき、必要に応じて就業上の配慮を受けられます。

厚生労働省が運営する「こころの耳」では、電話・メール・SNSでの相談窓口が設けられており、匿名で相談できます。

症状が重い場合は、心療内科や精神科の受診を検討し、必要であれば休職という選択肢もあります。

出典：厚生労働省「こころの耳」

8. システムエンジニアがしんどいと感じたら取るべき行動まとめ

システムエンジニアの「しんどさ」は、個人の努力不足ではなく、多重下請け構造や納期至上主義、技術進化の速さといった構造的要因が大きく影響しています。

厚生労働省や経済産業省の公的データで自分の労働環境を客観的に判断し、まずは休息とセルフケアから始め、原因を特定した上でスキルアップや環境変更を検討しましょう。

SEという職種は2030年に向けて需要が高まり続ける将来性のある仕事です。適切な環境を選べば、長く活躍できるキャリアを築けます。

しんどいと感じたら、一人で抱え込まず厚生労働省「こころの耳」などの相談窓口や転職エージェントを活用し、自分に合った働き方を見つけてください。