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MATLABとは——できること・Pythonとの違い・将来性を整理する

「MATLABとは何か」「Pythonとどう違うのか」「学ぶ価値はあるのか」——MATLABを初めて知った方が感じるこれらの疑問に、この記事でまとめてお答えします。

MATLABは、MathWorks社が提供する数値計算プラットフォームで、世界中で数百万人のエンジニアや研究者が日々の業務・研究に使っています(MathWorks社公式)。

定義から活用領域、Pythonとの使い分け、将来性、学習方法まで一通り解説します。

この記事を読んでわかること
  • MATLABの基本定義とできることの全体像について
  • PythonとMATLABの違いと場面ごとの使い分けについて
  • MATLABの将来性と学習を始めるための具体的な手順について

1. MATLABとは何か——数値計算プラットフォームの基本定義

1. MATLABとは何か——数値計算プラットフォームの基本定義

MATLABは、数値計算とアルゴリズム開発に特化したプログラミングプラットフォームです。名前の由来・開発の歴史・IDE構成の3点から、その基本を整理します。

名前の由来は「行列の研究所」——Matrixを軸に設計された言語である

MATLABは「Matrix Laboratory(行列の研究所)」の略です。名前が示すとおり、この言語の中心にある概念は「行列(Matrix)」です。

数値・文字列・画像データなど、あらゆるデータを行列として統一的に扱うという考え方がMATLABの根本にあります。

たとえば3行3列のデータを定義するとき

MATLABでは A = [1 2 3; 4 5 6; 7 8 9] の一行で完結します。他の言語なら二重ループが必要な演算も、MATLABは行列演算の書き方で一気に表現できます。

この書きやすさが、数値計算の現場で多くのエンジニア・研究者に支持されてきた大きな理由です。

内部では、数値線形代数の標準ライブラリであるBLAS(Basic Linear Algebra Subprograms)やLAPACK(Linear Algebra PACKage)が使われており、行列演算が高速・高精度で処理されます。細かい実装を意識しなくても、工学計算や統計解析にすぐ集中できます。

BLAS・LAPACKとは

BLAS・LAPACKは数値線形代数のための標準ライブラリです。

行列の積・固有値分解・特異値分解といった計算を、CPU命令レベルで最適化して実行します。MATLABはこれらを自動で使っているため、ユーザーは意識せずに高速な演算の恩恵を受けられます。

MathWorks社が1984年に商用化——開発の歴史と世界的普及の経緯

MATLABの始まりは1970年代後半にさかのぼります。

ニューメキシコ大学の数学者・クリーブ・モラー(Cleve Moler)が、学生がFORTRANを使わずに行列演算を実行できるよう、対話型の数値計算プログラムを開発したのが起源です。

その後、ジャック・リトル(Jack Little)らがC言語で再設計・高速化しました。

1984年、ジャック・リトルとクリーブ・モラーらはMathWorks社を設立し、MATLABを商用製品として世界に送り出しました。

以降、大学・研究機関・企業への普及が急速に進み、2019年時点での世界のユーザー数は400万人以上にのぼります(Wikipedia統計)。

現在も、自動車・航空宇宙・電機・医療機器など幅広い産業界と、世界中の大学で標準ツールとして使われています。

国内では東京大学が全学キャンパスライセンスを導入しており、在籍する学生・教職員は無償でMATLABとToolboxを利用できます。

(出典:東京大学utelecon

クリーブ・モラーについて

クリーブ・モラーは数値解析の第一人者で、LINPACK・EISPACKなどのライブラリ開発にも深く関わった人物です。

MATLABの生みの親として知られ、現在もMathWorks社の最高数学責任者(Chief Mathematician)として開発に携わっています。

プログラミング言語でありながらIDEも内包——MATLABの4つの主要コンポーネント

MATLABの大きな特徴の一つは、言語とIDE(統合開発環境)が最初から一体になっている点です。

インストール直後から、コードの記述・実行・デバッグ・データの可視化をすべて同じ画面で行えます。PythonやRのように複数のツールを組み合わせて環境を作る手間がありません。

MATLABのIDEは主に4つの画面で構成される

コマンドウィンドウ(Command Window):

コードを一行ずつ即時実行できる対話型の入力画面です。計算を試しながら進めるのに向いています。

ワークスペース(Workspace):

現在のセッションで定義されている変数の一覧と、型・サイズ・値を表示するパネルです。変数の中身をすぐに確認できます。

エディター(Editor):

複数行のスクリプト(.mファイル)や関数を書いて保存・実行するためのコードエディターです。シンタックスハイライト・ブレークポイント設定・ステップ実行などのデバッグ機能を備えています。

現在のフォルダー(Current Folder):

ファイルをGUI上で操作できるパネルです。スクリプトやデータファイルをドラッグ&ドロップで管理できます。

また、ライブエディター(Live Editor)という機能もあります。コード・実行結果・説明文(テキスト・数式・画像)を一つのドキュメントにまとめて書いて実行できる環境で、JupyterノートブックのMATLAB版にあたります。

授業資料や研究ノートとしても広く使われています。

MATLABのIDE画面構成(コマンドウィンドウ・ワークスペース・エディター・現在のフォルダーの4コンポーネント)

ライブエディターの活用場面

ライブエディターは、計算の途中結果をグラフとして埋め込みながら書けるため、実験ノートや技術レポートの作成にも使えます。

計算式と出力グラフをまとめて記録・共有できる点がJupyter Notebookと似ています。

2. MATLABでできること——7つの主要活用領域

MATLAB:7つの主要活用領域

01

数値計算・線形代数

行列演算 ベクトル化
02

AI・深層学習

CNN/LSTM AutoML
03

画像・信号処理

医療解析 FFT/レーダー
04

制御・ロボティクス

PID設計 SLAM
05

IoT・ハード連携

リアルタイム計測
06

自動コード生成

C/C++変換 CUDA (GPU)
07

モデルベース開発 (MBD)

Simulink システム検証

MATLABが実際にどんな問題を解くために使われているかを、代表的な7領域に分けて解説します。

数値計算・線形代数が圧倒的に高速——MATLABの根幹機能

MATLABの最大の強みは、数値計算・線形代数における速さと記述のシンプルさです。行列の積・逆行列・固有値分解・特異値分解といった演算を、短いコードで実装できます。

たとえば、2つの行列AとBの積は C = A * B の一行だけです。

内部ではBLAS・LAPACKがCPUの並列演算命令を使って処理するため、Pythonでforループを書いた場合と比べて、大規模な行列演算では数倍から数十倍速くなることもあります。

ベクトル化(ループを使わずに行列演算として書く方法)を活用することで、さらに高速化できます。

ベクトル化とは

for文を使った1件ずつの処理ではなく、行列・配列演算としてまとめて処理する書き方をベクトル化と呼びます。

MATLABはベクトル化された演算を内部でマルチスレッド実行するため、ループを明示的に書くより速く動きます。

AIとディープラーニングを標準ツールボックスで実装できる

MATLABは、AIや機械学習・深層学習の実装でも強力な環境を提供します。代表的なものが Deep Learning Toolbox と Statistics and Machine Learning Toolbox の2つです。

Deep Learning Toolbox

畳み込みニューラルネットワーク(CNN)や再帰型ニューラルネットワーク(LSTM)などのモデルをGUIベースで設計・学習・評価できます。

画像分類・物体検出・異常検知・予測モデルの構築など、現場ですぐ使える機能が標準で揃っています。

Statistics and Machine Learning Toolbox

サポートベクターマシン(SVM)・決定木・クラスタリングなど、定番の機械学習アルゴリズムを幅広く使えます。

これらToolboxはMathWorks社が品質保証と公式サポートを提供しているため、動作の安定性と再現性はオープンソースライブラリより高く、産業用途での信頼性が求められる場面に向いています。

(出典:MathWorks公式

Deep Learning Toolboxの主な機能

Deep Learning Toolboxは、TensorFlow・PyTorch形式のモデルのインポート・転移学習・ハイパーパラメータの自動最適化・GPUによる高速学習など、実務レベルの深層学習開発に必要な機能を網羅しています。

画像処理・信号処理の現場で長年使われてきた実績がある

MATLABは、画像処理と信号処理の分野で数十年以上の実績を持つプラットフォームです。

Image Processing Toolbox

画像のフィルタリング・形態学的処理・特徴量の抽出・セグメンテーションなど、コンピュータビジョンの基本処理を豊富な関数群で提供します。

MRIやCT画像など医療画像の解析にも多く使われており、DICOM形式を直接読み込んで3Dデータとして可視化・解析できます。

Signal Processing Toolbox

FFT(高速フーリエ変換)・フィルター設計・スペクトル解析・ウェーブレット変換など、信号処理の核となる機能をカバーします。

レーダー信号処理・ソナー・無線通信システムの設計で、防衛・航空・通信業界での使用実績が豊富です。

制御システム設計とロボティクス開発に欠かせないツールである

制御工学の分野において、MATLABは業界標準のツールです。

Control System Toolbox を使う

PID制御・状態フィードバック制御・ループ整形など、制御系設計の一連の作業をコマンドとGUIの両方で進められます。

ボード線図・根軌跡・ナイキスト線図といった解析グラフも、関数一つで生成できます。

プラントモデルの伝達関数を定義し、pidtune関数でPIDゲインを自動計算して、step関数でステップ応答を確認する——という一連の作業が数行のコードで実行できます。

Robotics System Toolbox を使う

ロボットアームやモバイルロボットの運動学・動力学計算・経路計画・SLAM(自己位置推定と地図作成の同時実行)をMATLAB上で実装できます。

ROSとの連携機能も備えており、実機のロボットとのデータ通信・制御にも対応しています。

(出典:MathWorks公式

IoTとハードウェア連携でリアルタイムデータを処理できる

MATLABはソフトウェア上の数値計算だけでなく、実際のハードウェアとのリアルタイム連携にも対応しています。

Arduino・Raspberry Pi向けのサポートパッケージを使えば、マイコンボードに接続したセンサー(温度・加速度・距離・カメラ等)からデータをリアルタイムで取得して、MATLAB上で可視化・分析できます。

スマートフォンアプリ MATLAB Mobile を使えば、スマートフォンの加速度センサー・GPS・カメラ等のデータをMATLABクラウドに送って、PC上でリアルタイムに処理することもできます。

IoTシステムのプロトタイプ作成や、センサーデータの取得・可視化をすぐ試したい場面で役立ちます。

(出典:MathWorks公式

MATLAB MobileとMATLAB Driveの連携

MATLAB MobileはMATLAB Driveというクラウドストレージと連携しています。

スマートフォンで集めたデータをクラウド経由でPC版MATLABと共有でき、外出先でのデータ収集とオフィスでの詳細解析をスムーズにつなげられます。

自動コード生成でC/C++コードを出力し組み込みシステムへ実装できる

MATLAB Coder による自動コード生成は、MATLABが持つ大きな強みの一つです。

MATLABで書いたアルゴリズムをC/C++コードに自動変換でき、変換されたコードはそのまま組み込みシステムや実機に使えます。

従来の開発とこれから

MATLABでプロトタイプを作って検証した後、エンジニアが手動でC/C++コードに書き直す工程が必要でした。

MATLAB Coderを使えばその工程がなくなり、プロトタイプから実装までの開発時間を大きく短縮できます。

医療機器・自動車のECU(電子制御ユニット)・産業用機械など、リアルタイム処理が必要な組み込みシステムで多く使われています。

MATLAB CoderとGPU Coderの違い

MATLAB CodがCPU向けのC/C++コードを生成するのに対し、GPU CoderはCUDAコード(GPU実行用コード)に変換します。

深層学習の推論処理やリアルタイム画像処理など、並列処理が効果的な用途ではGPU Coderを活用することで、実機での処理速度を大きく上げられます。

Simulinkと連携したモデルベース開発(MBD)が自動車・航空業界の標準になっている

MATLABと連携して使われる Simulink は、システムをブロック線図として視覚的にモデル化し、シミュレーションを実行するツールです。

Simulinkを組み合わせることで、制御アルゴリズムや物理システムの動作を実機なしで検証できます。

このシミュレーションベースの開発手法がモデルベース開発(MBD:Model-Based Development)です。自動車・航空宇宙・鉄道などの分野で広く採用されています。

シミュレーションモデルから Simulink Coder を使ってC/C++コードを自動生成し、ECU(電子制御ユニット)などの実機に書き込む——という流れを一本でつなげられます。

日産自動車をはじめとする国内外の自動車メーカーがこのMBDのワークフローにMATLAB・Simulinkを採用していることは広く知られています。

MBDが普及した背景

現代の高級車のECUが制御するソフトウェアのコード量は数億行規模とも言われています。

これを手書きで開発・検証することは現実的ではなく、モデルベース開発による自動生成・自動検証が欠かせない手段になっています。

3. MATLABとPythonの違い——用途・コスト・サポートで使い分ける

3. MATLABとPythonの違い——用途・コスト・サポートで使い分ける

MATLABとPythonは競合ではなく、用途によって使い分けるものです。コスト・特化領域・利用シーンの3軸で整理します。

コストと導入のしやすさはPython、信頼性と一貫性はMATLABに強みがある

MATLABとPythonの最もわかりやすい違いはコストです。

PythonはオープンソースでMIT系ライセンスのもと無償で使えます。一方、MATLABはMathWorks社の商用製品であり、個人・学生・法人の各ライセンスに応じた費用がかかります。

環境のセットアップ面でも違いがある

Pythonは言語本体のインストール後に、NumPy・SciPy・Matplotlib・Pandasなど用途に合ったライブラリを個別に入れて、バージョン管理(pip・conda・venv等)をする必要があります。

MATLABはインストール後すぐに数値計算・グラフ描画・デバッグ環境が整っており、セットアップの手間はほぼゼロです。

MATLABのToolboxはMathWorks社が品質保証と公式サポートを提供しているため、動作の安定性・再現性・信頼性はPythonのオープンソースライブラリより高く評価されています。

自動車の機能安全規格(ISO 26262等)への対応が必要な場面では、MATLABのToolboxが選ばれる傾向があります。

バージョン互換性の問題

Pythonのエコシステムは更新が速く、ライブラリのバージョンアップで互換性の問題(依存関係の衝突等)が起きやすい側面があります。

MATLABはMathWorksが一元管理しているため、特定バージョンで動いたコードは同バージョン内で安定して再現されます。

工学計算・MBDならMATLAB、Web開発・汎用AIならPythonが適している

どちらが優れているかではなく、「何をするか」によって向いているツールが変わります。

MATLABは数値計算・制御工学・信号処理・モデルベース開発に特化して作られており、これらの分野では使いやすさと信頼性で大きなアドバンテージがあります。

Pythonは、Web開発・データエンジニアリング・機械学習・自然言語処理・スクレイピングなど、幅広い用途に強みを持ちます。

TensorFlowやPyTorchなどの深層学習フレームワークのコミュニティもPython中心で発展しており、最新のAI研究の多くはPythonで実装・公開されています。

研究段階での柔軟な試行錯誤はPythonが得意、製品化に向けた厳しい検証にはMATLABが向いている、という使い分けが現場でよく見られます。

MATLABはPythonとの連携機能も備えており、両方を組み合わせる開発スタイルも広まっています。

研究・大学教育ではMATLAB、スタートアップ・個人開発ではPythonが選ばれやすい

使う場面ごとに選ばれやすいツールの傾向があります。研究・大学教育の現場では、東京大学の全学ライセンス導入に代表されるように、MATLABが標準ツールとして定着しています。

制御工学・信号処理・システム工学の授業や卒業研究・修士論文でMATLABが指定されることも多く、学術論文との互換性(.mat形式・Simulinkモデルの共有等)でも強みがあります。

一方、スタートアップや個人開発者にとっては、コストゼロで始められるPythonの方が選びやすく、エンジニアコミュニティ全体でもPythonユーザーの数は圧倒的に多い状況です。

製造業・自動車・航空宇宙の大企業ではMATLAB/Simulink、Web・スタートアップ・個人プロジェクトではPythonが主流、というのが現在の実態です。

どちらを学ぶかは、目指すキャリアの方向性で判断するのが合理的です。

以下の表で、MATLABとPythonの主な違いをまとめます。

比較軸MATLABPython
ライセンス費用有償(個人・学生・法人ライセンスあり。大学の全学ライセンス経由で無償利用できる場合もあり)無償(オープンソース)
環境構築インストール後すぐ使用開始可能。IDE・ツール一式込み言語本体に加えライブラリを個別導入・バージョン管理が必要
特化領域数値計算・制御工学・信号処理・MBD・組み込み開発Web開発・汎用AI・データエンジニアリング・自然言語処理
サポート体制MathWorks社による公式テクニカルサポート・品質保証ありコミュニティベース(Stack Overflow、GitHub等)が中心
学習コスト工学系の知識があれば比較的習得しやすい。Toolboxが多く、どれを選ぶか迷うことも入門者向けの資料が豊富で始めやすい。ライブラリの多さに圧倒されることも

4. MATLABの将来性——最新データが示す市場での需要

4. MATLABの将来性——最新データが示す市場での需要

言語ランキング・開発者調査・産業動向の3つのデータから、MATLABの現在の市場ポジションと今後の需要を確認します。

TIOBEランキングでトップ20を維持——プログラミング言語としての市場シェア

プログラミング言語の人気・利用率を示す指標として広く参照されているTIOBE Indexで、MATLABは長年トップ20圏内を維持しています。

2025年のデータでも、工学・数値計算に特化した言語として安定した需要があることが確認できます。

Python・Java・C/C++などの汎用言語が上位を占めるなかで、MATLABは工学特化型ツールとして独自の需要を保ち続けています。

汎用言語とシェアを争うのではなく、「この分野ではMATLABしか使わない」というユーザー層が安定して存在することがその理由です。

(出典:TIOBE Index

TIOBEランキングの読み方

TIOBEランキングは言語の品質や優劣を示すものではなく、その言語に関するコンテンツがウェブ上にどれだけあるかを測定するものです。

MATLABがトップ20を維持するということは、世界の教育・産業の現場でMATLABを使い続けているユーザーが一定数いることを意味します。

Stack Overflow調査でも一定の利用率——世界の開発者からの評価

Stack Overflowが毎年行う開発者調査(Developer Survey)は、世界中のエンジニアの利用言語・ツール・給与などを集計した大規模なデータです。2024年版では約6万人の開発者が対象となりました。

同調査では、MATLABは科学技術計算・工学系の専門職を中心に一定の利用率が報告されています。

MATLABユーザーは製造業・研究機関・航空宇宙など付加価値の高い産業に集中しており、給与水準の中央値も比較的高い傾向があります。

コミュニティの規模ではPythonやJavaScriptに及ばないものの、「使いこなせる人材が少ない」という特性が市場価値を支えています。

(出典:Stack Overflow Developer Survey 2024

「Admired(称賛)」指標とは

Stack Overflow調査の「Admired」指標は、現在その言語を使っていてかつ今後も使い続けたいと答えたエンジニアの割合です。

MATLABの比率は汎用言語より高くはありませんが、利用者の多くが業務上の必要性から使い続けている層であり、離れにくい安定した利用者層が特徴です。

MBDエンジニアの需要は自動車・航空・ロボット分野で拡大している

MATLABの将来性を考えるうえで重要な背景の一つが、自動車産業でのEV化と自動運転技術の進展です。

電気自動車や先進運転支援システム(ADAS)では電子制御システムの比重が急増しており、MATLAB・Simulinkを使ったモデルベース開発の需要が広がっています。

製造業全般でのDX(デジタルトランスフォーメーション)推進も追い風に

工場の自動化・ロボット導入・品質管理の高度化など、製造現場のデジタル化でMATLAB/Simulinkベースの開発環境が活用されています。

航空宇宙分野でも、フライトコントロールシステムやGNC(誘導・航法・制御)システムの設計ツールとしてMATLABが使われており、防衛・宇宙開発領域での需要も続いています。

自動運転とMBDの関係

自動運転システムは、センサー融合・経路計画・制御アルゴリズムなど多数のサブシステムから成ります。

Simulinkでモデル化してシミュレーション上で大規模な仮想検証を行い、コードを生成して実機に載せるという流れは開発効率と安全性の両面で優れており、各自動車メーカーで採用が進んでいます。

MATLABエンジニアの年収・求人動向——MBDスキルの市場価値

MATLAB・Simulinkのスキルを持つエンジニアは、国内の転職市場でも需要が高まっています。

特にMBDエンジニアとして自動車・航空・ロボティクス分野でキャリアを積む場合、スキルを持つ人材が少ないため高い市場価値が期待できます。

求人状況

自動車メーカーや大手Tier1サプライヤーが継続的にMBDエンジニアを募集しており、組み込みソフトウェア開発・制御システム設計・HIL(Hardware-in-the-Loop)テスト等の職種でMATLAB/SimulinkスキルをJD(職務要件)に明記した求人が多く見られます。

フリーランス市場でもMBD関連の案件は比較的高単価な傾向があります。

MATLABはWeb・アプリ開発分野とは異なり、習得できる人材が少なく希少性が高い状態が続いています。工学系の知識とMATLABスキルを組み合わせることで、競合の少ない専門家としてのキャリアを築きやすくなります。

MBDエンジニアとして市場価値を高めるスキルセット

MATLAB/Simulinkの基本操作に加えて、AUTOSAR規格の知識・HILテスト環境の構築・ISO 26262(機能安全)への対応経験を持つエンジニアは、特に自動車業界で高く評価されます。

制御工学・信号処理の基礎知識と合わせて習得するとより効果的です。

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5. MATLABの料金とライセンス——個人・学生・法人向けの選び方

5. MATLABの料金とライセンス——個人・学生・法人向けの選び方

ライセンスの種類と、費用をかけずに試す方法を紹介します。

個人・学生・キャンパス一括の3種類のライセンスがある

MATLABのライセンスは、利用目的と立場に合わせていくつかの種類が用意されています。MathWorks公式サイトでは主に以下の3区分での提供が行われています。

個人ライセンス(Individual License):

企業に所属しない個人ユーザー向けのライセンスです。

MATLAB本体のほか、必要なToolboxを追加購入できます。法人向けライセンスより価格は抑えられていますが、法人が個人ライセンスで業務利用することは原則として認められていません。

学生ライセンス(Student License):

認定大学・教育機関に在籍する学生向けのライセンスです。個人ライセンスより安く、MATLAB本体と主要Toolboxがセットで提供されます。卒業研究・授業・個人学習に活用できます。

キャンパスワイドライセンス(Campus-Wide License):

大学・研究機関が一括で導入する機関ライセンスです。東京大学はこのライセンスを全学的に導入しており、在籍する学生・教職員はMATLABとほぼすべてのToolboxを追加費用なしで使えます。

法人向けには、利用人数・用途・規模に応じた見積もりベースのエンタープライズライセンスも用意されています。

(出典:東京大学utelecon

ライセンス費用の目安について

具体的な価格はMathWorks公式サイトで確認できます(為替・バージョン・ライセンス種別によって変わります)。

学生ライセンスは個人ライセンスより大幅に安いことが多く、在学中に学習を始める場合のコストのハードルは比較的低くなっています。

MATLAB Onlineとトライアルで費用をかけずに試せる

MATLABをまず試してみたい場合、費用をかけずに使える方法が複数あります。

無料トライアル(Free Trial)

MathWorks公式サイトから申し込むと、一定期間(通常30日間)MATLAB本体と主要Toolboxを無償で試用できます。クレジットカードの登録なしで申し込めるため、気軽に試せます。

MATLAB Online

ブラウザ上でMATLABを実行できるクラウド版です。MathWorksアカウントを作ればインストール不要でMATLABの基本機能を使えます。

有償プランが基本ですが、アカウント保有者向けに一定の無償枠が設けられているケースもあります。

(出典:MathWorks公式

MATLAB Onramp

MathWorks社が提供する無料のオンライン入門コースです。

ブラウザ上でMATLABコードを実際に実行しながら学べるカリキュラムで、ライセンスがなくても学習を始められます。所要時間は約2時間で、基本操作・行列演算・グラフ描画を体系的に学べます。

(出典:MathWorks公式 Onramp

MathWorksアカウントの作成について

MathWorksアカウントは無償で作成でき、MATLAB Online・Onramp・公式ドキュメントへのアクセスを一括管理できます。

6. MATLABの学習方法——初心者が最短で使えるようになるロードマップ

MATLAB:最短習得ロードマップ

01

MATLAB Onramp

公式無料コース ブラウザで学習 2時間で完結
02

4つの基本操作

行列・変数 グラフ描画 スクリプト作成
03

Simulinkの習得

Simulink Onramp モデルベース開発
04

外部リソース活用

MATLAB Central 公式ドキュメント Qiita / 講義資料

公式の無料コースから基本操作、Simulink、参考リソースまで、学習の進め方を順に説明します。

公式の無料コース「MATLAB Onramp」が最も効率的な入門手段である

MATLABの学習を始めるなら、まず取り組むべきはMathWorks社が提供する公式の無料オンライン入門コース「MATLAB Onramp」です。

MATLAB Onrampは、ブラウザ上でMATLABコードを実際に動かしながら学べるコースです。インストールもライセンスも不要で、MathWorksアカウントさえあればすぐに無償で始められます。

所要時間は約2時間で、基本操作・変数と行列の扱い・スクリプトの作成・グラフの描画など、実務の基礎になる内容を体系的にカバーしています。

概念の説明→コードを入力して実行→即時フィードバック、というサイクルを繰り返す設計になっており、独学でも効率よく進められます。

MATLABを初めて触る方はまずこのコースを完走するところから始めましょう。

(出典:MathWorks Onramp

MATLAB Onramp修了後の次のステップ

Onramp修了後は、同じMathWorks Academyで提供されているMATLAB Fundamentalsコース(有償)や、各Toolbox別のOnrampシリーズ(Deep Learning Onramp・Signal Processing Onramp等、いずれも無料)に進むことで、特定の領域を体系的に学べます。

基本操作は「行列・変数・プロット・スクリプト」の4つを押さえれば動き出せる

MATLABを実務で使うために、まず押さえるべき基本操作は「行列の定義」「変数の扱い」「グラフの描画」「スクリプトの作成」の4つです。

この4つを習得すれば、多くの数値計算作業をMATLABで進められるようになります。

変数・行列の定義とグラフ描画

変数と行列の定義は、コマンドウィンドウに a = 5A = [1 2; 3 4] と入力するだけです。

型の宣言は不要で、代入と同時に自動で型が決まります。グラフ描画は plot(x, y) の一行で折れ線グラフを表示でき、xlabelylabeltitle 関数でラベルやタイトルを追加できます。

実行時間計測とベクトル化

実務で役立つTipsとして、tic/toc による実行時間の計測があります。tic でタイマーを開始し、toc で経過時間を表示する形で使い、処理の遅い箇所を特定するのに便利です。

for文の代わりにベクトル化(行列演算)で書くことで処理速度が大幅に上がります。たとえば各要素を2乗する処理は B = A.^2 と書くことで高速に実行できます。

スクリプトと関数の使い分け

MATLABでは、.mファイルとしてスクリプト(一連の処理を記述)や関数(入出力を持つ再利用可能な処理)を定義できます。

コードが長くなってきたらスクリプトへ、同じ処理を繰り返し呼び出すなら関数ファイルへ整理する習慣をつけると、メンテナンスしやすいコードになります。

Simulinkの学習は「Simulink Onramp」から始めるのが最短ルートである

MATLABの基礎を固めた後、MBD(モデルベース開発)や制御システム設計に進む場合は、次のステップとしてSimulinkの学習に取り組みます。

MATLABとSimulinkは別製品のため(位置づけはH2「7」で整理します)、学習も順番に進めるのが効率的です。

Simulinkの入門として最もお勧めなのが、MathWorks社が無償で提供している「Simulink Onramp」です。MATLAB Onrampと同様に、ブラウザ上でSimulinkのブロック線図を操作しながら学べるコースです。

MATLABの基本操作に慣れてから取り組むことで、スムーズに学習を進められます。

(出典:MathWorks Simulink Onramp

Simulink習得の優先度の判断基準

制御工学・自動車・航空分野を目指す場合はMATLABと合わせて早めに習得するのがお勧めです。

データ解析・信号処理・AIが主な用途であれば、まずMATLAB本体をしっかり習得してからSimulinkに進む順序で問題ありません。

書籍・コミュニティ・大学公開資料で学習の幅を広げられる

MATLAB Onrampを終えた後、学習をさらに深めるためのリソースも豊富に揃っています。

公式ドキュメント・MATLAB Central

まず一次情報として最も信頼性が高いのが、MathWorks社の公式ドキュメントです。

すべての関数の仕様・使用例・入出力の詳細が日本語で書かれており、実務での調べ物はまずここを参照するのが基本です。

MathWorks社が運営するMATLAB Centralでは、世界中のユーザーが投稿したコード・質問・回答にアクセスでき、File Exchangeでは便利なスクリプトを無償でダウンロードして使えます。

Qiita・書籍・大学公開資料

国内の技術共有コミュニティとして、QiitaにはMATLABの実践的な記事・Tips・コード例が多数投稿されており、初心者から中級者まで幅広く参考になります。

大学の公開資料も有効な学習素材で、理工系大学では授業で使ったMATLABの講義資料を公開しているケースがあります。

書籍はMathWorks社公式から出版されている入門書や、国内の理工系出版社のMATLAB専門書が体系的な学習に役立ちます。

MATLABの最新情報や詳細な技術情報は英語で発信されているものも多く、MATLAB Centralのフォーラム・YouTubeの公式チュートリアル動画も活用すると学習の幅が広がります。

7. MATLABを導入する前に知っておくべきエコシステムの全体像

7. MATLABを導入する前に知っておくべきエコシステムの全体像

MATLAB本体・Simulink・Toolbox・クラウド環境がそれぞれどのような位置づけにあるかを整理し、導入・選定の参考にしましょう。

SimulinkはMATLABとは別製品——連携して使うことで真価を発揮する

MATLABとSimulinkはよく一体のツールとして語られますが、ライセンス上は別々の製品です。

MATLABのライセンスを持っていてもSimulinkは含まれておらず、Simulinkを使うには別途ライセンスを取得するか、Simulinkが含まれたバンドル製品(MATLAB & Simulink Student Suite等)を選ぶ必要があります。

MATLAB本体とSimulinkの役割の違い

MATLAB本体は、コードを書いてアルゴリズムを開発・数値計算・データ解析・グラフ描画・コード生成(MATLAB Coder)を行う環境です。

Simulinkは、システムをブロック線図でビジュアルにモデリングして、時系列のシミュレーションを実行する環境です。

MATLABだけで完結する用途・Simulinkが必要になる用途

MATLABだけで完結する用途には、データ解析・機械学習モデルの構築・信号処理・画像解析・組み込み向けコード生成などがあります。

Simulinkが必要になるのは、制御システムのダイナミクスをブロック線図でモデル化したい場合や、MBDのワークフローでシステム全体のシミュレーション検証を行う場合です。

MATLABとSimulinkを連携させる具体的な場面

たとえば、MATLABで設計したPIDコントローラーのゲインをSimulinkのブロックに読み込んでシミュレーションを実行し、その結果をMATLABワークスペースで解析する——という行き来が典型的な連携の使い方です。両者はワークスペースの変数を共有しているため、スムーズに連携できます。

Toolboxは必要な領域だけを追加購入できる拡張パッケージである

Toolboxは、MATLAB本体では提供されていない専門領域の機能を追加する有償のオプションパッケージです。

本体だけでも基本的な数値計算・グラフ描画・スクリプト実行はできますが、深層学習・信号処理・制御設計などの専門用途に取り組むには、それぞれのToolboxが必要になります。

代表的なToolboxを領域別に整理すると以下のとおりです。

領域代表的なToolbox主な用途
AI・機械学習Deep Learning Toolbox / Statistics and Machine Learning Toolboxニューラルネットワーク設計・学習、分類・回帰・クラスタリング
画像処理Image Processing Toolbox / Computer Vision Toolboxフィルタリング・セグメンテーション・物体検出
信号処理Signal Processing Toolbox / DSP System Toolboxフィルター設計・FFT・スペクトル解析
制御設計Control System Toolbox / Robust Control ToolboxPID制御・状態フィードバック・ループ整形
ロボティクスRobotics System Toolbox / ROS Toolbox運動学・動力学・経路計画・ROS連携
コード生成MATLAB Coder / Embedded Coder / GPU CoderC/C++・CUDA・組み込みコードへの自動変換
通信・RFCommunications Toolbox / RF Toolbox通信システム設計・変調・RF回路解析

導入するToolboxは「何をしたいか」で決めるのが基本です。全Toolboxを一括購入する必要はなく、必要な領域だけを選ぶことでコストを調整できます。

Toolboxの試用について

無料トライアル期間中はMATLAB本体に加えて多くのToolboxも試せます。「このToolboxが自分の用途に合うか」を事前に確かめる期間として活用することをお勧めします。

MATLAB OnlineとMATLAB Mobileでクラウド・モバイルからも利用できる

MATLABはPCへのインストール版だけでなく、クラウドやスマートフォンからも使えます。

MATLAB Online

Webブラウザ上でMATLABを実行できるクラウドサービスです。

インストール不要で、MATLAB Driveというクラウドストレージにファイルを保存・共有できます。複数人での共同作業や、PCの環境を変えずに学習・試験運用をしたい場面に向いています。

教育機関のオンライン授業で、受講者全員が同じMATLAB環境を使えるという点でも採用されています。

MATLAB Mobile

iOS・Android向けのアプリです。MATLAB Driveと連携することで、スマートフォンからMATLABの基本操作・コマンド実行・ファイルアクセスが可能になります。

スマートフォンの加速度センサー・GPS・カメラ等のデータをリアルタイムでMATLABクラウドに送信する機能も持っています。

エンタープライズ展開とMATLAB Driveについて

企業での大規模展開には、MATLABをクラウドサーバー上で運用する形態(MATLAB Parallel Server等)も選択肢になります。

MATLAB Coderで生成したC/C++コードを組み込みデバイスに実装する形態と組み合わせれば、クラウドでの開発・検証から実機への展開まで、MATLABエコシステムの中で一通り完結させることができます。

なお、MATLAB DriveはMATLABファイル(.m・.mat・.slx等)を保存・共有するクラウドストレージ(容量制限あり)であり、File Exchangeを含むMATLAB Centralとは別のサービスです。

8.まとめ:MATLABとは何かを押さえ、次の行動を決める

8.まとめ:MATLABとは何かを押さえ、次の行動を決める

MATLABは、数値計算と工学シミュレーションに特化したプログラミングプラットフォームです。Pythonとは競合するものではなく、用途や業界によって使い分けるものです。

モデルベース開発や自動コード生成を通じた産業界での需要は、EV化・自動運転・製造DXの加速とともに今後も拡大が見込まれます。

学生であれば所属大学のキャンパスライセンスを活用してMATLAB Onrampから体験を始めること、実務エンジニアであれば公式ドキュメントや無料トライアルで現場への活用可能性を確かめること、キャリアチェンジを考えるエンジニアであれば、MBDスキルを軸にした求人・案件の検索を次のアクションとして始めてみることをお勧めします。

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