日本で働く外国籍の方にとって、適切なSIMカード選びは快適な生活の基盤となります。しかし、日本の複雑なモバイル市場や契約システムに戸惑う方も多いでしょう。
この記事では、MNOとMVNOの違いから、プリペイドとポストペイドの特徴、人気サービス、契約手続きまで、知っておくべき日本のSIM事情を包括的に解説します。
- 日本のモバイル市場の構造とMNO・MVNOの違い、自分に最適なプランの選び方について
- 外国籍の方に人気の5つのSIMサービス(Sakura Mobile、JP Smart SIM等)の料金と特徴について
- 契約に必要な書類、審査対策、APN設定などの実践的な手続き方法について
1.日本のSIMカード市場について

日本のモバイル市場には、大手キャリアのMNOと、格安SIM提供事業者のMVNOがあります。
MNO(大手キャリア)
MNOは、モバイル用の回線網を自社で所有し、通信サービスを提供しています。
日本でMNOに該当するのは、docomo・au・SoftBank・楽天モバイルの4社です。MNOは月額料金が高めですが、通信速度が速く安定していて、サービスも充実しているのが特徴です。
MVNO(格安SIM提供事業者)
MVNOは、MNOが所有する回線を借りて通信サービスを提供しています。MNOと比べるとサポートの充実度は低いですが、安く利用できるのがメリットです。
その他
日本ではeSIMも普及しつつありますが、実際に利用している人の割合はまだそれほど多くありません。
また、高速・大容量通信に対応した5Gも広く利用可能です。2023年度末時点で、5G人口カバー率は98.1%を達成したと報告されています。
2.プリペイドSIM・ポストペイドSIM・eSIMの特徴比較

前払いのプリペイドSIMと後払いのポストペイドSIMには、以下のような違いがあります。
SIMの種類 | 契約期間 | データ容量 | 音声通話の可否 | 解約手数料 | 料金 |
プリペイドSIM | 短期 | 容量、期間設定がある | 〇(データ通信プランが主流) | 不要 | 比較的高い |
ポストペイドSIM | 長期 | 容量無制限プランあり | 〇(音声通話ができるプランが主流) | 契約内容によっては発生 | 比較的安い |
短期契約ができるプリペイドSIMは、一時滞在者や旅行者に向いています。契約手続きや審査などがなく外国籍の方も手軽に利用しやすいですが、容量あたりのコストは割高になる傾向があります。
日本に長期滞在するなら、月額料金が比較的安いポストペイドSIMがおすすめです。
3.人気のMVNO・低価格帯ブランド5選

長期滞在者にも人気のMVNO・低価格帯プランは、Sakura Mobile・JP Smart SIM・IIJmio・mobal・povoの5つです。
それぞれのSIMの料金例やサポート言語を見てみましょう。
Sakura Mobile

英語にも対応しており、充実したサポート体制が整っています。
旅行用SIM
データ容量無制限・5日間で3,850円~、eSIMは3,300円~です。
居住者向けプラン
音声+データSIM/eSIMが5GBで月額3,278円~、データ専用SIM/eSIMが5GBで2,728円/月~です。
JP Smart SIM

カスタマーサポートは、英語・ベトナム語・中国語に対応しています。
短期(プリペイド)プラン
3GB・5日間で1,480円~で、その他プランが多数あります。
長期プラン
音声+データSIMが1GBで880円/月~、データプランが3GBで1,078円/月~です。
IIJmio

JAPAN Travel SIMの電話サポートは、日本語、英語、中国語に対応しています。
プリペイドSIM・音声eSIM
2GBが4,170円/3カ月です。ポストペイドのギガプラン音声eSIMの場合、2GBが850円で、その他多数のプランがあります。
データSIM・データeSIM
データSIMは2GBが740円/月、データeSIMは2GBが440円/月です。このほか、旅行者向けのJAPAN Travel SIMもあり、3GBから55GBまでプランが用意されています。
mobal

サポート言語は、英語・中国語・日本語に対応しています。
短期SIM
音声通話SIMが500MBで2,970円~、データSIMが25GBで4,730円/8日間~です。
90日以上の長期SIM
1GBで1,650円/月~です。
povo

サポート言語は英語に対応しています。
JAPAN SIM
128 kbpsの低速通信を無料で利用できます。データパック商品を購入すると速度制限が解除される仕様で、料金例は1GBが2,200円/30日、10GBが3,800円/30日などです。
4.SIMカード契約に必要な書類と法的ルール

SIMカードを契約するときには、本人確認書類と、支払いの設定に必要な書類を用意します。
本人確認書類は、在留カードやパスポートなどを準備しましょう。支払いの設定には、クレジットカードや銀行口座の通帳などが必要です。
日本でSIMカード契約時に本人確認書類が必要なのは、携帯電話不正利用防止法があるためです。
携帯電話の不正利用を防止する目的で、音声通話SIMカード販売時には契約者の本人確認およびその記録の保存が義務づけられています。
本人確認が厳しい理由と審査対策
外国籍の方がSIMカードを契約する際は、審査に通りにくいケースがあります。
審査基準は通信事業者によって異なりますが、本人確認書類で住所が日本に変更されていない場合や顔写真がない場合、在留期限が短い場合などは審査に通りにくいかもしれません。
また、クレジットヒストリーも確認されるため、これまでに滞納の履歴がある場合や、過去の信用情報が全くない場合などは審査に通るのが難しくなります。
審査対策としてできること
在留カードに住所が印字されていることを事前に確かめておくことです。また、まずはプリペイドSIMや格安SIMの安い料金プランから利用し始め、少しずつ実績を積むのもひとつの方法です。
支払いに設定する銀行口座やクレジットカードは、できれば日本のものを用意しておきましょう。
5.外国籍エンジニアがSIMを選ぶ際の5つのチェックポイント

外国籍エンジニアがSIMを選ぶときにチェックしたいポイントは、以下の5つです。
- 通信エリアと速度
- 契約期間と違約金
- 英語サポート
- 支払い方法(クレジットカード・口座振替)
- スマホのSIMロック機能
通信エリアと速度
通信事業者により、通信エリアや速度、安定性は異なります。快適にインターネットを利用するためには、自宅や職場など普段の生活圏でつながりやすい回線を選ぶのがポイントです。
各通信事業者はホームページ上で5Gなどのサービスエリアマップを公開しているので、一度チェックしてみましょう。通信速度や安定性を重視する場合は、MVNOよりもMNOがおすすめです。
契約期間と違約金
日本での滞在期間が限られている場合は、契約期間と違約金にも注意が必要です。
日本ではこれまで、2年間や3年間などの長期契約を結び、分割の端末料金と月額通信料金を一緒に支払うスタイルが一般的でした。
現在は、総務省によるルールの変更などを背景に、契約期間の縛りが廃止される傾向にあります。
ただし、契約プランによっては最低契約期間が設定されていて、途中解約をすると違約金が発生します。契約前に必ず契約期間と違約金の有無・金額をしっかり確認し、納得してから契約するようにしましょう。
英語サポート
日本でSIMを契約する外国籍エンジニアにとって、英語でのサポートがあるかどうかは重要なポイントです。理解できる言語で説明してもらうことで、安心して契約できます。
テクニカルサポートも英語対応があるとより安心
スマートフォンのAPN設定やSIMロック解除などのテクニカルサポートも、英語で対応してもらえると、よりスムーズです。通信トラブルなどが起きた場合も、英語で問い合わせて迅速に問題を解決できます。
通信事業者によっては、英語以外に中国語やベトナム語などでもサポートが可能です。
支払い方法(クレジットカード・口座振替)
日本のSIMの支払い方法は、クレジットカードまたは口座振替が一般的です。どちらの支払い方法を選ぶとしても、クレジットカードの名義または銀行口座の名義は、SIMの契約者と一致していなければなりません。
クレジットカードは海外で発行されたものだと使えないケースもあるため、日本で発行されたものを持っておくと安心です。日本で銀行口座を開設する場合は、早めに手続きをしておくのがおすすめです。
日本のクレジットカードや銀行口座を持っていない場合は、現金で購入できるプリペイドSIMが便利です。
スマホのSIMロック有無
日本で契約したSIMを利用するには、持っているスマートフォンのSIMロックが解除されている必要があります。
最近発売されるスマートフォンのほとんどはSIMロック解除済みですが、古いスマートフォンなどではSIMロックがかかっていることもあります。
6.SIMカード取得までのステップ

日本でSIMカードを取得するまでの流れは、主に以下の通りです。
- 情報収集
- プラン選定
- 必要書類の準備
- オンラインまたは店頭での購入
- 開通設定(APN・eSIMプロファイル)
情報収集~プランの選定・書類準備
まずは日本の各通信事業者のプランや料金、支払い方法などの情報を収集しましょう。必要な情報が集まったら、比較しながら自分に合うプランを選定します。
プランが決まったら、そのプランを契約するために必要な書類の準備をします。
契約~開通手続き
実際の契約は、オンラインまたは店頭で行います。外国籍の方にとっては、外国語に対応したWebサイトでオンライン契約する方法が簡単です。
申し込み後、SIMカードまたはeSIMに関する必要な情報が届いたら、自分の端末で開通手続きをします。
Wi-Fi環境下で利用する回線のAPN設定ページを開き、APN構成プロファイルをダウンロードします。ダウンロードできたら、契約した通信事業者の表示を確認してインストールすれば、開通手続きは完了です。
ただし、開通方法は通信事業者により異なる場合があるので、詳しくは申し込んだSIMのWebサイトや一緒に送られてくるガイドラインなどを確認しましょう。
オンラインで申し込む場合
オンラインで申し込む場合は、公式サイトの該当欄に必要事項を入力します。氏名や住所などの個人情報を入力し、プランや支払い方法を選択します。申し込み時には、本人確認書類のアップロードが必要です。
申し込み後は、入力した内容やアップロードした書類に基づいて審査が行われます。無事に審査に通れば、本人確認書類に記載された住所にSIMカードが発送されます。
発送されるまでの日数は事業者により異なりますが、2~3日程度が目安です。
家電量販店・キャリアショップで契約する場合
家電量販店やキャリアショップなどの店舗に出向いて契約することも可能です。
店頭ではスタッフによるサービスを直接受けられるほか、最短即日でSIMカードを受け取れる可能性があります。SIMの開通手続きを自分でやるのが不安な人にもおすすめです。
店舗で申し込む場合も、必要な本人確認書類は同じです。店舗では待ち時間が発生することもあるので、可能であれば来店予約をしておきましょう。
7.よくある質問(FAQ)とトラブルシューティング

日本でSIMを契約して利用するときには、勝手が分からず戸惑うこともあるかもしれません。そこで、日本のSIMに関してよくある質問に回答します。
「SIMが届かないときはどうしたらいい?」
天候などの理由により配送に遅れが生じるケースがあります。SIMの発送状況はメールやマイページなどでチェックできる場合が多いので、一度確認してみましょう。
また、eSIMを申し込んだ場合はSIMカードの発送はありません。
発送完了から1週間が経っても届かない場合は、カスタマーサポートに連絡しましょう。
「APN設定で通信ができないのはどうして?」
APN設定がうまくいかない場合、SIMカードが正しく挿入されているかどうか確認してみてください。データ通信が有効になっていることや、APNが正しく選択されていることも確認しましょう。
一度端末を再起動したり、機内モードとデータ通信モードを切り替えたりすることでうまくいくケースもあります。
「帰国・転職のため契約途中で解約する場合の違約金は?」
ポストペイドSIMの契約途中での解約は、違約金が発生するケースがあります。まずは契約内容を確認し、違約金の有無や解約に関する注意点を把握しましょう。
2025年5月時点では、多くのキャリアで最低利用期間は定められていません。また、違約金が発生する場合も、2022年4月以降の契約では違約金の上限は1,100円(税込み)と決められています。
違約金の支払いを回避したい場合は、利用期間の縛りがないプランを選ぶか、プリペイドSIMを利用しましょう。
「海外版スマホでも使える?」
海外版のスマートフォンを日本で使う場合、「技適(技術基準適合証明)」の認可を受けているなど、特定の条件を満たしていなければなりません。
また、端末の対応バンドと、日本のキャリアが使用している周波数が適合している必要もあるので、事前に確認しておきましょう。
もちろん、日本のSIMを利用するには端末のSIMロックが解除されている必要もあります。
8.日本でSIMカードを利用し快適に通信環境を整える

日本でのSIM契約は、適切な情報収集と準備があれば決して難しくありません。
自分の滞在期間と用途に合わせてプリペイドかポストペイドかを選び、英語サポートの有無や支払い方法を確認することが重要です。
この記事で紹介した5つのサービスや契約のポイントを参考に、快適な通信環境を整えて、日本での生活やキャリアをより充実させましょう。