日本でのIT転職を成功させるには、ブラック企業かどうかを見極める力も求められます。また、外国籍エンジニアは言語の壁やビザの問題など、日本人以上に慎重な企業選びが必要です。
この記事では、求人票の危険信号から面接での質問術まで、ブラック企業を避けるための実践的なノウハウをくわしく解説します。
- ブラック企業の特徴と外国籍エンジニア特有のリスクについて
- 求人票から危険な企業を見抜く具体的なチェックポイントについて
- 面接で企業の本質を見極める効果的な質問方法について
1.ブラック企業の基本知識:まず全体像を掴む

日本でのキャリアを成功させるには、まずブラック企業の実態を正しく理解することが重要です。法的定義があいまいだからこそ、海外エンジニアは独自の判断基準を持つ必要があります。
ここでは、ブラック企業の特徴と外国籍エンジニアが直面する特有のリスクについて解説します。
ブラック企業とは?法律上の定義が無い理由
労働条件や労働環境が極端に悪く、従業員が過度なストレスを抱えてしまうような企業を総称してブラック企業と言います。
法律上の定義があるわけではなく、厚生労働省でも「若者の”使い捨て”が疑われる企業等」という言い方をしています。
ブラック企業が定義されていない理由
ひとつは、ブラックかどうかの判断が、労働時間や待遇といった客観的な要素だけでなく、働く人の主観や業種特有の事情にも左右されるためです。
また、法令に違反していなくても、長時間労働やハラスメントが常態化している職場もあり、一律の基準を設けることが難しい現状があります。
ブラック企業の主な特徴
一般的にはブラック企業という言葉は広く浸透しており、具体的には以下のような特徴があります。
- 長時間労働、サービス残業が当たり前となっている
- 有給休暇が取得できない
- パワハラ、セクハラが横行している
- 給料が不当に低い、賃金の未払いがある
- 従業員が頻繁に入れ替わる
- 人間関係のトラブルが多い
業種としては、飲食業、運送業、旅行業、介護業、建設業、人材業などがブラック企業になりがちだと言われています。いずれも、人の手による作業が必須で、客観的な評価が難しい側面がある業種です。
また、職種では、ノルマを課せられる営業職やさまざまな人を相手にする接客業などがブラックな環境になりやすくなります。
それ以外に、休日出勤が多い会社も人材不足になりやすく、ブラック化する可能性があります。
外国籍エンジニアが受ける追加リスク(ビザ・言語の壁)
社内公用語が日本語である場合、うまくコミュニケーションが取れなかったり、そのことがきっかけで人間関係や仕事のトラブルにつながったりする場合もあります。
また、就労ビザの更新サポートがうまくいかなかったり、日本語のみの契約書を交わしたりした場合は、在留資格の取り消しや労務トラブルを招く原因にもなりえます。
他にも、外国籍ということで不当な扱いを受けたり、差別されたりすることもあるかもしれません。
どのくらい受け入れ体制が整っているか、現時点でどれくらいの外国籍人材が働いているのかという点も、きちんと確認するようにしましょう。
2.自分を守る土台作り:「NGライン」を設定する

ブラック企業を避けるには、感情的な判断ではなく、明確な基準に基づいた冷静な企業選びが不可欠です。
日本の労働法規を正しく理解し、自分の価値観に合った「譲れない条件」を事前に設定することで、転職活動での迷いを減らし、適切な判断ができるようになります。
残業上限・最低賃金など法定ミニマムを把握
日本の労働基準法では、労働時間は原則1週間で40時間、1日で8時間以内と定められています。
残業時間の上限
- 原則として1カ月45時間、1年360時間以内
- 特別の事情がある場合のみ、1カ月100時間未満(休日労働含む)、1年で720時間、複数月にまたがる場合は1カ月平均80時間以内(休日労働含む)、限度時間を超えて時間外労働ができるのは1年のうち6カ月を限度とする
入社して働くまで、労働時間の実情がわからないことも多いかもしれませんが、まずは求人情報を細かく読み込むことが大切です。
面接の際に、労働時間はどれくらいなのか、休日出勤、残業はどれくらいあるのかを確認するようにしましょう。
求人内容と面接の説明に食い違いがある場合は、ブラック企業である可能性があるため、就職先として再考が必要です。
参考:厚生労働省:労働基準法
キャリア・健康・ビザの三軸で優先度を決める
自分が入社する上で何を重視するかあらかじめ考えておくことも大切です。
たとえば、給与よりもビザの更新支援など滞在資格の安定を優先したいなど、譲れない条件を事前に数値化し”レッドライン”を決めておきましょう。
レッドラインの優先度と判断するポイント
決める際には、キャリア・健康・ビザの三軸で優先度を考えるのがおすすめです。
ITエンジニアといっても、システム開発の上流から下流まですべて自社で行っている会社もあれば、クライアントから開発を依頼され、一部のみ開発を行っている会社もあります。
また、社内SEか社外SEかによっても、働き方は異なってきます。給与、労働時間、休日、福利厚生など、判断するポイントは様々なので、自分が何を重視し、どんな働き方をしたいのかを明確にしておきましょう。
3.求人票・採用サイトでブラックを見分けるチェック方法

求人情報は企業の実態を映す鏡です。
表面的な魅力的な言葉の裏に隠された真実を読み取る技術を身につけることで、面接に進む前の段階でブラック企業を効率的に取り除くことができます。
ここでは、求人票から危険信号を察知する具体的な方法を紹介します。
危険なキーワードと異常な数値を見抜く
日本のブラック企業が多用するフレーズの一番手が「アットホーム」という言葉です。働きやすそうな雰囲気を感じますが、実際は以下のようなケースがみられる場合もあります。
「アットホーム」と記載していたが、異なった事例
- ワンマン経営
- 社員に対してやたらと距離が近い
- 社員に対して必要以上に干渉してくる
- 必要のないイベントが多い など
また、実際はギスギスした人間関係なのに、アットホームという標語を掲げることで実態を隠している可能性も否定できません。
求人情報に、あまりになれなれしい様子の写真や、いかにもアットホームな雰囲気を演出するイメージ写真が掲載されていたりする場合は、それを完全に信じずに他の情報も見に行きましょう。
「若手が活躍」という言葉にも問題が隠されていることがある
ベンチャー系など創業間もない企業であれば実際にありえますが、普通に考えればベテラン社員が活躍しているはずで、在籍年数が極端に短いことが連想されます。
そのため、あまりにも若手の活躍を押し出すような記述がある企業には用心したほうがいいかもしれません。
他にも、「風通しがよい」「活気ある職場」など、耳に心地よいものの具体的な内容が一切なく、抽象的なキャッチフレーズばかり書いてあるような求人も要注意です。
休日や残業時間もチェックする
年間休日や残業時間もきちんと確認しておきましょう。ただ、年間休日は、法的に厳密に定められているわけではなく、業種や職種によって1日の労働時間も異なります。
また企業によって労使協定もさまざまなため、一概にこの日数以下だとブラックだ、とは言い切れません。ただし、極端に年間休日が少ない場合には、労働基準法に抵触している可能性があります。
残業時間についても、労働基準法上、原則として上限は、月45時間とされています。固定残業が45時間を超える場合には、違法の可能性もあります。
参考:厚生労働省:労働基準法
募集職種の”常時掲載”と離職率をチェック
常に求人情報を掲載している会社はブラック企業である可能性があります。
- 離職率が高く慢性的な人手不足に陥っている
これは、まさにブラック企業の典型です。労働環境や人間関係が悪かったり、パワハラ、セクハラが横行していたり、長時間労働が常態化していたりなど、何らかの問題があるために、離職率が高くなっていると考えられます。 - 事業拡大のため積極的な採用を行っている
大量採用や継続的な求人が出ていても、事業拡大や人手不足が理由の場合もあるため、それだけでブラック企業と判断することはできません。労働市場で知名度の低い中小企業や人気のない業種、職種だとこのような事態が起こりえます。しかし、経営戦略に無理があるケースも少なくありません。 - 流動性の高い業種である
サービス業や飲食業、IT業界など、人材の流動性が高い業種では、求人が常に出ていることがあります。近年ではスキルアップやライフスタイルに合った働き方を求めて転職する人が多いため、必ずしもブラック企業とは限りません。しかし、劣悪な労働環境が隠れていないかどうかは、慎重に見極める必要があります。
固定残業代表記と基本給のバランス
固定残業代を取り入れている企業は、裏を返せばその分の残業を見越しているということです。
また、その固定残業を超えた場合に”サービス残業”となっていることも考えられます。見かけ上の総支給額こそ高くても、時間当たり、1日当たりの報酬が低い場合もあります。
固定残業代を取り入れている企業では、残業時間が固定分を超えた場合の対応について、面接時に確認しておきましょう。
4.面接でブラック企業を見抜く質問

面接は企業の本質を見極める最後のチャンスです。適切な質問によって企業の労働環境や外国籍人材への対応姿勢を明確にし、入社後のミスマッチを防ぐことができます。
ここでは、海外エンジニアが特に注意すべき質問のポイントを解説します。
残業実績・離職率を具体的な数値で尋ねる
残業時間や離職率については、聞きづらく感じるかもしれませんが、入社後に後悔しないためにも面接時にしっかり確認しておくことが大切です。
こうした質問に対して、明確な数値や実績をもとに回答してくれる企業は、情報開示に積極的なホワイト企業であると考えられます。
一方で、答えをあいまいに濁したり、具体的な説明を避けたりする企業は、ブラック企業の可能性があります。
答えを得られたとしても平均残業が月30時間超は黄信号、月50時間を超えているなら赤信号だと捉えておきましょう。
ビザ更新サポートと英語書類の有無
ビザの更新手続きは在留期間が終わるまでに行わなくてはならないため、ビザの更新サポート体制が整っているか確認する必要があります。
入社後に、企業からのサポートが不十分だったり、必要な書類を準備してもらえなかったりする事態を避けるためにも、事前の確認を怠らないことが大切です。
また、日本語のものだけでなく英語の雇用契約書や就業規則をもらえるかも確認しておきましょう。日本語のものだと細かいニュアンスが伝わりづらく、のちのちトラブルに発展する可能性もあります。
外国籍人材の雇用をうたっていても、社内の制度や体制が整っていない場合は、名ばかりの可能性があります。回答があいまいであるようなら、面接まで進んでいても辞退も視野に入ってくるでしょう。
面接官の態度・連絡速度を評価する
面接は、企業側だけでなく応募者にとっても職場環境を見極める重要な場です。
面接官の態度が高圧的だったり、メールでのやりとりがスムーズでなかったりする場合は、入社してからも問題が起こりがちです。
また、約束した面接の時間に面接官が10分以上遅れてくるような場合は、社内の対応力や組織としての信頼性に不安が残ります。
こうした対応に不安を感じたら、無理に選考を続けず、辞退を検討するのもひとつの選択肢です。
5.ホワイト企業を選ぶ5つの指標(IT業界版)

ブラック企業を避けるだけでなく、積極的にホワイト企業を選ぶことが重要です。特にIT業界では、技術革新のスピードが速く、働き方も多様化しています。
外国籍エンジニアにとって理想的な職場環境を見極めるための具体的な指標を、実践的な観点から紹介します。
IT業界で働きやすい環境を見極めるには、「ホワイト企業」とされる企業の特徴を知っておくことが重要です。
特に外国籍エンジニアや多様な働き方を求める人にとっては、労働環境や企業文化が自分に合っているかどうかを判断する明確な基準が求められます。
ここでは、働きやすさ・安心感・多様性の3点から見た、ホワイト企業を選ぶ5つの指標を紹介します。求人情報や面接時のチェックポイントとして、企業選びの参考にしてください。
36協定・残業実績を公開し、第三者認証を取得している
- 「36協定」の締結状況
多くの企業で残業を可能とする「36協定」が労使間で締結されていますが、内容については求職段階では通常、公開はされません。とくに特別条項締結の有無はしっかり確認する必要があります。 - 残業実績の公開
求人情報に月平均残業時間が書かれているのは当然のことで、その時間数が理にかなっているかを判断することが大切です。 - 第三者認証の取得
利害関係のない公的機関などの認証を受けていることはホワイト企業の証しです。IT業界では個人情報や情報資産保護に関するTRUSTe、プライバシーマークなどが知られています。
参考:厚生労働省:三六協定
英語公用語・多国籍比率20%以上などの環境が整っている
- 英語公用語
社内で英語が公用語になっていれば、外国籍エンジニアとして働きやすいのは言うまでもありません。Slackの英語チャンネルを常設していたり、社内の通訳体制が整っていたりする場合も、外国籍労働者の定着率を高めることに努めている目安になります。 - 多国籍比率20%以上
日本でも社員の多国籍化に取り組む企業は増えてきており、ある会社ではエンジニア部門の約3割が外国籍人材です。2割以上が外国籍エンジニアであれば、海外人材を雇用する体制が問題なく整っていると判断してよいです。
6.ブラック企業の避け方を知り外国籍エンジニアとして日本での成功をつかむ

外国籍エンジニアが日本で充実したキャリアを築くには、ブラック企業を事前に見抜く技術が重要です。
求人票の危険なキーワードや面接での適切な質問を通じて、労働環境や外国籍人材への対応姿勢を見極めましょう。
ビザサポートや言語面での配慮も含めて総合的に判断し、自分に最適な職場を選択することが成功への第一歩となります。