働き方改革が進む日本で注目を集めるフレックスタイム制度。労働者が始業・終業時刻を自由に決められるこの制度は、ワークライフバランスの向上や生産性向上に効果的です。
特に外国籍の方々にとっては、日本の職場文化を理解しながら活用することが重要です。
この記事では、制度の基本から実務上の注意点までくわしく解説します。
- フレックスタイム制度の基本的な仕組みと2019年法改正のポイントについて
- 外国籍エンジニアが制度利用時に押さえるべき在留資格・契約上の注意点について
- よくあるトラブル事例と解決策(清算期間の過不足、深夜勤務の扱いなど)について
1.日本のフレックスタイム制度の全体像

フレックスタイム制度は、労働者が自身の始業・終業時刻をある程度自由に決められる柔軟な働き方のひとつです。
日本でも働き方改革を通じてワークライフバランスや生産性向上への関心が高まる中、フレックスタイム制を導入している企業は全体の7.2%を占めます。
フレックスタイム制とは何か
フレックスタイム制は、一定期間内に決められた総労働時間を満たせばよい働き方の制度で、日ごとの出勤・退勤時刻を自分で決めることができます。
この一定期間は「清算期間」と呼ばれ、1か月から最大3か月で設定されます。清算期間内であれば、毎日の労働時間が異なっても問題ありません。
フレックスタイム制を活用すれば、仕事とプライベートを両立しやすくなり、自分の生活リズムに合わせた柔軟な働き方が可能です。
特に、子育てや介護など家庭の事情がある人や、通勤ラッシュを避けたい人にとっては、有効な制度です。
総労働時間について
総労働時間は、清算期間内の所定労働日数に、1日の所定労働時間を掛けて算出します。例えば、清算期間が1か月で所定労働日数が20日、1日の所定労働時間が8時間であれば、総労働時間は160時間です。
法定枠組みと2019年改正ポイント
フレックスタイム制は、労働基準法第32条の3および第32条の3の2に定められています。
清算期間については1か月以内に限られていましたが、2019年4月の法改正により、上限が「3か月以内」に延長されました。
この変更によって、忙しい時期とそうでない時期、または家庭の事情に合わせて、柔軟に労働時間を管理できるようになりました。
清算期間が1か月を超える場合
対象となる期間や総労働時間、労使協定で決めた内容などを明確にしておく必要があります。
また、時間外労働が発生した際の判定方法も変わるため、制度の運用には就業ルールの見直しや社内の整備が求められます。
コアタイム設定例と柔軟な勤務モデル
フレックスタイム制には、「コアタイムあり」と「コアタイムなし(フルフレックス)」の2つの運用方法があります。
コアタイム
例えば、コアタイムが「10時〜15時」に設定されている場合、この時間は必ず働かなければなりません。それ以外の時間は各自で自由に調整可能です。
フルフレックス
コアタイムなしのフルフレックスでは、清算期間内に決められた総労働時間を満たせば、勤務時間を自分で決めることができます。
特にIT企業では、出社せず在宅勤務と組み合わせたフルフレックス制度を取り入れている事例が多く、通勤の負担を減らしながら、仕事の効率を高めています。
2.外国籍エンジニアがフレックスタイムを利用する際のポイント

日本で働く外国籍エンジニアとして知っておきたいのは、まず在留資格の内容や、労働契約が明確に説明されているかという点です。
勤務時間や給与、契約期間などは、あいまいにせずしっかり確認しましょう。
特にフレックスタイム制度を使う場合、コアタイムの有無や深夜に働いた時間の割増賃金などについてもチェックが必要です。
在留資格とフレックスタイムの適合性
外国籍エンジニアの多くが取得する「技術・人文知識・国際業務」ビザでは、業務内容が専門的であれば、労働時間について厳密な制限は設けられていないため、フレックスタイム制の導入が可能です。
ただし、実際の仕事が単純作業だとみなされてしまうと、在留資格の条件に合わない可能性があります。
そのため「どのような業務をしているのか」「勤務時間がどのようになっているか」をきちんと管理し、記録しておくことが大切です。
制度を利用したいときは、事前に会社とよく相談し、自分の業務内容や働き方がルールに合っているかを確認しておきましょう。
契約形態(雇用/委託)別の留意事項
外国籍エンジニアが日本で働く場合、多くは会社と雇用契約を結びます。雇用契約では、勤務時間の管理や残業の記録が法律で決められていて、会社が適切に対応する責任があります。
業務委託契約の場合
業務委託契約になると、報酬は成果に応じて支払われ、働いた時間の管理は基本的に必要ありません。
ただし、会社から細かい時間指定などがあると、委託ではなく「偽装請負」として問題になることがあります。
契約の種類によって働き方やルールが大きく変わるので、自分がどの契約にあたるのかを理解し、契約内容をしっかり確認することが大切です。
日本の職場文化とフレックス活用のギャップ
日本の会社では、上司の承認を重視する文化があります。
そのため、外国籍エンジニアがフレックスタイム制を使うときも、あらかじめ上司に相談もしくは許可を取ることが必要なケースが多いでしょう。
また、会議やチーム内の連絡がコアタイムに集中することが多く、自分の都合だけで働く時間を決めるのが難しいこともあります。
さらに、「みんなと同じ時間に働くこと」が安心とされる風潮もあり、柔軟な働き方が広がりにくい面もあります。
フレックス制度をうまく使いたいなら、チームメンバーや上司と話し合い、制度のルールをしっかり理解した上で、トラブルが起きないように合意を取っておくことが大切です。
3.業界別フレックスタイム導入状況と活用事例

フレックスタイム制度の導入状況は業界によって大きく異なります。IT業界では高い導入率を誇る一方、製造業や金融業では業務特性に応じた工夫が求められています。
IT・テック業界での活用パターン
IT業界では、フルフレックス(コアタイムなし)を採用する企業が増加しています。リモートワークと組み合わせることで、エンジニアの集中しやすい時間帯での作業を可能にしています。
IT・テック業界でのフレックス例
朝型のエンジニアは6時から14時、夜型のエンジニアは12時から20時といった働き方が一般的です。
海外チームとの連携が必要な場合、時差を考慮した柔軟な勤務時間設定により、効率的なコミュニケーションを実現している企業も多く見られます。
製造業・金融業での制約と工夫
製造業
生産ラインやチームワークが重視されるため、間接部門(設計、企画、営業など)でコアタイム付きのフレックス制を採用するケースが増えています。
金融業界
規制や顧客対応の関係でコアタイムが長めに設定される傾向がありますが、バックオフィス業務を中心に制度活用が進んでいます。
特に外国籍エンジニアが多いフィンテック企業では、グローバルな働き方に対応したフレックス制度を導入している事例が目立ちます。
4.制度活用前に確認すべきチェックポイント

フレックスタイム制度を効果的に活用するには、事前の準備と情報収集が重要です。転職・就職時の確認事項から入社後の準備まで、段階的に整理しておきましょう。
会社選びの際の確認事項
転職や就職を検討する際は、以下の点を必ず確認しましょう。
制度の詳細について
- コアタイムの有無と時間帯
- 清算期間の設定(1か月か3か月か)
- フルリモートワークとの併用可否
- 深夜・休日勤務時の割増賃金の計算方法 など
運用の実態について
- 実際に制度を利用している社員の割合
- 上司の制度理解度と協力的な姿勢
- 人事評価への影響の有無 など
入社後の制度活用準備
制度を効果的に活用するために、入社後は以下の準備を行いましょう。
- 勤怠管理システムの使い方をマスター
- チーム内でのコミュニケーション方法を確立
- 定期的な勤務状況の振り返り
5.外国籍エンジニア特有の活用メリットと注意点

外国籍エンジニアにとってフレックスタイム制度は、時差を活用した国際的な働き方を可能にする有効な手段です。しかし、日本の職場文化を理解し、適切に配慮することも重要となります。
時差活用による国際的な働き方
例えばアメリカ西海岸とのミーティングが必要な場合、日本時間の早朝や深夜に対応することで、リアルタイムでの意思疎通が可能になります。
母国の家族との連絡や、グローバルなオンライン会議への参加なども、勤務時間を柔軟に調整することで対応しやすくなります。
文化的配慮事項
報告・連絡・相談(ホウレンソウ)の徹底
勤務時間が変則的になる場合でも、上司やチームメンバーへの適切な情報共有を心がけましょう。通常とは異なる時間帯に働く場合は、事前の相談と事後の報告を忘れずに行うことが大切です。
チームへの配慮
個人の都合を優先しすぎず、チーム全体の業務効率や雰囲気に配慮した制度活用を心がけることで、職場での信頼関係を築くことができます。
6.制度活用時のキャリア形成への影響

フレックスタイム制度の活用は、適切に行えばキャリア形成にポジティブな影響をもたらします。評価への影響を最小限に抑えながら、スキルアップの時間を確保することが重要です。
昇進・評価への影響
フレックスタイム制度の活用が直接的に昇進や評価に悪影響を与えることは法的に禁止されていますが、以下の点に注意が必要です。
- 重要な会議や意思決定の場への参加頻度
- 上司や同僚とのコミュニケーション機会
- チームプロジェクトへの貢献度の可視化
制度を活用しながらも積極的な職場参加を心がけることが重要です。
スキルアップとの両立
フレックスタイム制度を活用することで、以下のようなスキルアップの機会を増やすことができるでしょう。
- 通勤時間の短縮により生まれた時間での自己学習
- 海外のオンライン研修やセミナーへの参加
- 資格取得のための勉強時間の確保 など
効率的な時間活用により、キャリア形成をより戦略的に進められるのがフレックス制度の大きなメリットです。
7.FAQとトラブルシューティング

日本で働く外国籍エンジニアにとって、フレックスタイム制度は便利ですが、制度の理解不足などから戸惑うこともあります。ここでは、よくある質問と解決策を取り上げます。
「海外出張
労働時間はどのように取り扱う?」
通常、海外出張した日については労使協定で定めた「1日あたりの所定労働時間」を満たしたと考えます。
ただし、「移動時間を労働時間に含めるか」など企業によって就業規則・出張経費規程が異なるため、事前に確認しておくことをおすすめします。
「清算期間終了時に不足・超過が出たら?」
フレックスタイム制では、1か月などの清算期間内に働いた時間の合計が、あらかじめ決められた「所定労働時間」に足りないと、不足分の扱いが問題になります。
期間内に所定時間の不足・超過が出そうな場合には、早めに上司に相談することが大切です。誤解を防ぎ、トラブルを避けるためにも、勤務時間の管理には注意しましょう。
不足がある場合
多くの企業ではその時間を翌月に繰り越すか、給与から差し引く方法を取っています。
どちらの対応になるかは、会社の就業規則や労使協定によって決まっているため、自分の契約内容や社内ルールをよく確認しましょう。
超過の場合
清算期間内に実際に働いた労働時間が法律で定められている「法定労働時間」を超えると、時間外労働とみなされます。一般的に、超過した分については会社へ時間外手当(残業手当)を請求できます。
「コアタイムに遅刻しても問題ない?」
コアタイムが「10時〜15時」に設定されている場合、11時に出勤したり、14時に退勤したりしてしまうといずれも遅刻・早退とみなされます。
フレックスタイム制を採用している場合、清算期間内の所定労働時間を満たせば賃金カットなどがされることはありません。
ただし遅刻等が繰り返されると、自身の評価や昇進、チームワークなどに影響を与えることが考えられます。
「フレックスでも深夜勤務は割増対象?」
フレックスタイム制を使っていても、22時から翌朝5時までの間に働いた時間は「深夜労働」として扱われ、通常の賃金に加えて25%以上の割増賃金を支払うことが法律で義務づけられています。
これは労働基準法で定められており、制度を利用しているかどうかに関係なく適用されます。
深夜勤務が本人希望の場合は
例えば、本人の希望で深夜に作業した場合でも、企業は割増賃金を支払わなければなりません。
夜間に働くことが多くなりそうなときは、あらかじめ会社の労働条件を確認し、正しく深夜手当が支払われているかをしっかり確認することが大切です。
不安な点があれば、早めに上司や人事担当者に相談しましょう。
8.日本でフレックスタイムを活用して働くために

フレックスタイム制度を効果的に活用するには、まず制度の基本理解が必要です。コアタイムや清算期間の概念を把握し、上司・チームとの事前合意を取ることが成功の鍵となります。
外国籍エンジニアは在留資格や契約形態にも注意を払い、日本の職場文化を理解しながら制度を利用することで、働きやすさと生産性の両立が実現できるでしょう。