世界でも上位のIT市場を誇る日本ですが、2030年には最大79万人のエンジニア不足が予測されています。この状況は、外国人エンジニアにとって絶好のキャリアチャンスとなっています。
高年収を得られる専門分野や日本企業での成功戦略など、日本のソフトウェアエンジニア市場の最新状況と外国人材が活躍するための具体的なステップを徹底解説します。
- 日本のソフトウェアエンジニア不足の実態と外国人材に期待される役割について
- 外国人エンジニアが高収入を得られる5つの専門分野と求められるスキルについて
- 日本企業で成功するための文化適応ポイントとキャリア構築戦略について
1.日本のソフトウェアエンジニア市場の現状と外国人採用の実態

日本のITエンジニア市場は今、大きな転換期を迎えています。
人材不足が深刻化する中、外国人エンジニアへの期待が高まっており、グローバルな視点でこの市場を捉えることが重要になっています。
日本のIT人材不足・外国人エンジニアへの期待
日本のITエンジニア人口は現時点で「およそ144万人」となっています。一見すると大きな数字に思えるかもしれませんが、北ヨーロッパ地域・アメリカなどと比較すると、日本のIT技術者の割合は低いことがわかります。
つまり、「IT技術者の割合を高められる余地はまだ大きい」というのが現状です。
さらに深刻なのは、経済産業省による予測では、日本のIT人材需要は2018年の109万人から2030年には164万人に増加する見込みであるのに対し、供給が追いついていないという点です。
現在のままでは、2030年には40万人から最大80万人ものIT人材が不足すると予測されているのです。
この不足の主な原因として、次の2つが挙げられます
- 大企業や官公庁のDX化(デジタルトランスフォーメーション)の加速による需要増加
- インターネット黎明期(90年代初頭)に社会人となったエンジニアの大量引退が今後10年で見込まれること
こうした背景から、日本企業は外国人エンジニアに大きな期待を寄せています。
特に専門性の高い分野においては、国籍を問わず優秀な人材を確保する動きが強まっており、外国人エンジニアにとって有利な市場環境が形成されつつあります。
参考:ヒューマンリソシア:ITエンジニア 経済産業省:IT人材育成の状況
グローバル比較で見る日本のエンジニア市場
日本のIT人材数は「世界4位」という数字自体は実は悪くありません。
ヒューマンリソシアによる調査では、アメリカや中国を下回るものの、ドイツやイギリスを上回るエンジニア数を誇っています。
また、日本のIT市場も世界第4位の規模を持ち、技術レベルも国際的に高く評価されています。
しかし、注目すべき点は「人口に対するIT技術者の比率」です。日本は、欧米諸国と比較して明らかに低く、IT技術者を増やす余地がまだ大きいことを示しています。
また、日本のソフトウェアエンジニア市場にはいくつかの特徴があります。
■日本とグローバルIT市場の違い
- チーム作業を重視する文化(個人の成果よりもチーム全体の成果を評価)
- 長期的な雇用関係を重視する傾向(欧米に比べて転職率が低い)
- 品質とプロセスへのこだわりが強い(特に金融・製造業向けのシステム開発)
- ドキュメント作成や報告など、開発以外の業務も重視される
給与水準については、日本のソフトウェアエンジニアの年収は国際的に見ると中程度ですが、専門性が高い分野や先端技術に携わるエンジニアの報酬は徐々に上昇傾向にあります。
外国人エンジニアの採用に積極的な日本企業の増加傾向
近年、外国人エンジニアの採用に積極的な日本企業が増加しています。
その背景には、グローバル展開を進める企業の増加、技術革新のスピードアップ、そして何よりも深刻なIT人材不足があります。
特に大手IT企業を中心に、外国人材を受け入れるための環境整備が進んでいます。
大手IT企業の外国人エンジニア採用の環境整備 | 社内公用語を英語にする 技術ビザの取得支援プログラムの充実 異文化理解のための研修プログラムの導入 リモートワークの普及による地理的制約の緩和 外国人向け住宅支援 日本語学習支援の提供 など |
また外国人エンジニア向けの採用イベントや、海外の大学と提携したインターンシッププログラムも増えています。
こうした傾向は、従来の日本企業の採用慣行が大きく変化していることを示しており、グローバル人材の獲得競争が激化していることの表れでもあります。
2.外国人エンジニアが日本で働くメリットと課題

日本でのキャリアを検討する外国人エンジニアにとって、この国特有のメリットと向き合うべき課題を理解することは非常に重要です。
市場規模や収入面でのチャンス、そして言語や法的側面での課題を正しく認識することで、より実りある経験につなげることができるでしょう。
世界第4位のIT市場規模がもたらす豊富な就業機会
日本のIT市場は世界第4位という規模を誇り、約12兆円規模のマーケットを形成しています。
この市場規模は、外国人エンジニアにとって非常に魅力的な就業環境を意味しています。
特に現在進行中のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進により、従来のIT企業だけでなく、製造業、金融業、小売業など様々な業種でIT人材への需要が高まっています。
就業機会の多様性も日本市場の特徴です。大手IT企業やグローバル企業から、成長中のスタートアップ、専門特化型の中小企業まで、さまざまなタイプの企業がエンジニアを求めています。
■特に外国人エンジニアに有利な分野
- グローバル展開を進める企業のバイリンガル開発チーム、
- 先端技術(AI、機械学習、ブロックチェーンなど)を扱うプロジェクト、
- 外国市場をターゲットにしたサービス開発、
- 国際標準に準拠したシステム開発、
- オープンソースコミュニティと連携したプロジェクト など
これらの分野では、むしろ日本人よりも外国人エンジニアが優位に立てるケースも少なくありません。
また英語でのコミュニケーションを基本とする開発環境も増えており、日本語スキルがなくても活躍できるポジションも増加しています。
日本企業におけるエンジニアの平均年収
日本のソフトウェアエンジニアの平均年収は、一般的に約580万円程度ですが、経験や専門性によって大きく変動します。
特に専門性の高い分野や先端技術に携わるエンジニアは、年収1,000万円を超えることも珍しくありません
企業タイプ別の年収傾向として、大手日系IT企業や外資系IT企業は平均年収より高い傾向にあります。
またスタートアップ企業は平均年収程度~やや高い場合もあり、またストックオプションの権利を得られるケースも多くなっています。
■日本企業の給与体系の状況
伝統的に年功序列の傾向がありましたが、IT業界では実力主義への移行が進んでいます。特に専門性の高いエンジニアや、グローバルな経験を持つ人材に対しては、従来の枠を超えた報酬を提示する企業も増えています。
また日本で働くメリットとして、多くの企業では住宅手当や通勤手当などの追加手当も一般的です。
言語障壁を乗り越えるための実践的アプローチ
日本で働く外国人エンジニアにとって最大の課題の1つが言語障壁です。
しかし、近年ではこの障壁を低減するためのさまざまな対策や環境整備が進んでいます。
言語障壁克服のための戦略 | ・英語環境で働ける企業を選択する(外資系やグローバル企業) ・技術スキルに特化したポジションを選ぶ(コーディングが主な業務など) ・多言語対応の翻訳ツールやコミュニケーションツールを活用する ・バイリンガルの同僚を介したコミュニケーション戦略を構築する ・日本語学習支援を提供する企業を優先する ・外国人コミュニティでの情報交換やサポートを活用する など |
実際には、日常会話レベルの日本語スキルがあれば、多くの職場で十分に機能することができます。
技術用語は英語由来のものも多く、また実際のコーディング作業では英語が基本となるため、プログラミングスキルが高ければ、言語の問題はある程度はカバーできるでしょう。
技術ビザ取得のための条件と申請プロセス
日本で働くためには適切なビザが必要です。
エンジニアにとって最も一般的なのは「技術・人文知識・国際業務」ビザですが、より条件の良い「高度専門職」ビザの取得も視野に入れるべきでしょう。
- 技術・人文知識・国際業務ビザの基本要件
分野の学位(大学または専門学校)または10年以上の実務経験、日本企業からの雇用オファー、一定水準以上の給与(日本人と同等以上)、専門性の高い業務内容など
特に注目すべきは「高度専門職」ビザです。このビザは政府のポイント制度に基づいており、学歴、職歴、年収、年齢、資格などの要素に応じてポイントが付与され、70点以上で取得可能となります。
高度専門職ビザの保持者は、在留期間の長期化(最長5年)などさまざまな優遇措置を受けることができます。
ビザ申請のプロセス
ビザ申請プロセスは通常、以下のステップで進みます。
- 日本の企業から雇用オファーを受ける
- 企業が入国管理局に在留資格認定証明書を申請
- 認定証明書が発行されたら、自国の日本大使館・領事館でビザを申請
- 日本入国後、居住地の市区町村役場で外国人登録を行う
多くの企業では、ビザ申請のサポートを提供していますが、事前に条件や必要書類について理解しておくことが重要です。
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以下の記事では、日本で働く9つのメリットについて、詳しく解説しています。
3.日本企業が外国人エンジニアに求めるスキルセット

日本企業が外国人エンジニアに期待するのは、技術力だけではありません。日本特有の企業文化への理解と適応力、そしてグローバルな視点という付加価値も重要視されています。
これら複合的なスキルセットを理解することで、日本企業での活躍の可能性が大きく広がります。
技術力以上に重視されるコミュニケーション能力の実態
日本企業において外国人エンジニアを評価する際、意外かもしれませんが、純粋な技術力よりもコミュニケーション能力を重視するケースが多くなっています。
これは単に日本語ができるかどうかという問題ではなく、チーム内での情報共有や業務の円滑な進行に不可欠な能力として認識されています。
特に、日本の開発現場では特定のコミュニケーション能力が求められます。
進捗状況の定期的な共有と透明性の確保、問題発生時の早期報告と対応策の提案、チームメンバーとの円滑な意思疎通、クライアントの要望を正確に理解し適切に応答する能力、非言語コミュニケーションへの理解(「空気を読む」能力)などです。
日本独自の「報連相」とチーム文化への適応力
日本の職場文化を理解する上で必須の概念が「報連相」(ほうれんそう)です。これは「報告・連絡・相談」の略で、日本企業におけるコミュニケーションの基本原則とされています。
報連相の基本要素
- 報告(業務の進捗や結果を定期的に上司や関係者に伝える)
- 連絡(自分の行動予定や情報を関係者と共有する)
- 相談(問題や判断に迷う事項について、事前に関係者の意見を求める)
「報連相」の文化は、チーム全体の調和と情報共有を重視する日本的な職場環境から生まれたものです。外国人エンジニアにとっては、特に「相談」の部分が難しく感じられることがあります。
欧米のビジネス文化では個人の判断と責任が重視されるため、些細なことで相談することが「能力不足」と受け取られる懸念があるからです。
外国人エンジニアが日本の職場文化に適応するために
自分の進捗状況を定期的に共有する習慣をつける、小さな問題でも早めに報告・相談する、チームの決定に対して建設的に貢献する、個人の成果よりもチーム全体の成功を優先する姿勢を示すといったポイントを意識すると良いでしょう。
日本企業が評価する国際的な視点と多様性
日本企業のグローバル化が進む中、外国人エンジニアには「国際的な視点」と「多様性」を組織にもたらす役割も期待されています。
これは単に海外市場に関する知識だけでなく、異なる問題解決アプローチや開発手法をチームに導入することも含まれます。
■特に高く評価される傾向にある外国人エンジニアの役割
海外市場のニーズに関する知見 | グローバルな技術トレンドや最新手法に関する情報 |
英語圏のリソースや海外コミュニティとの連携能力 | 多様な視点からの問題解決アプローチ |
組織の国際化やダイバーシティ推進への貢献 | 日本と他国の架け橋 |
多くの日本企業では、イノベーションを促進するために多様性(ダイバーシティ)の価値が認識されるようになっています。
外国人エンジニアは、チームに新しい視点や考え方をもたらし、創造的な問題解決を促す触媒としての役割が期待されています。
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以下の記事では、日本IT企業で成功するための5つの必須スキルについて、詳しく解説しています。
4.外国人エンジニアに高需要な5つの専門分野

日本市場では特に需要が高く、外国人エンジニアが活躍できる専門分野が存在します。
これらの分野は技術トレンドと日本特有の市場ニーズが交わる領域であり、専門性を持つことで市場価値を高めることができます。
グローバルな視点と専門技術を活かせるこれらの分野について、くわしく見ていきましょう。
グローバル展開を加速させるAI・機械学習エンジニア
AI・機械学習は日本企業が最も積極的に投資している分野の1つであり、専門人材の需要が供給を大きく上回っています。
国内の人材不足が深刻なため、外国人エンジニアにとって絶好の参入機会となっています。
日本のAI市場規模は2023年時点で6,800億円を超え、年間30%以上の成長率で拡大しています。
特に製造業、医療、金融分野でのAI活用が急速に進んでおり、これらの分野では国際的な知見を持つエンジニアが重宝されています。
AI・機械学習エンジニアに求められるスキル
- プログラミング言語(Python、R、Julia)
- 機械学習フレームワーク(TensorFlow、PyTorch、Keras)
- データ処理・分析(SQL、Pandas、NumPy)
- クラウドAIサービス(GCP AI Platform、Azure ML、AWS SageMaker)
- 自然言語処理・コンピュータビジョンの専門知識 など
この分野の最大の魅力は、英語が事実上の標準言語となっていることです。
論文、ライブラリのドキュメント、コミュニティディスカッションのほとんどが英語で行われるため、日本語能力が限られていても専門性で勝負できます。
年収レンジも魅力的で、経験者であれば800万円〜(経験や専門性によってはそれ以上)という水準も珍しくありません。
参考:総務省:情報通信白書 厚生労働省:jobtag(AIエンジニア)
セキュリティ対策に不可欠なサイバーセキュリティ専門家
サイバーセキュリティ分野は、日本で最も深刻な人材不足に直面している領域の1つです。
特に日本企業は、グローバルなサイバー脅威に対応するため、国際的な視点と最新のセキュリティ知識を持つ専門家を求めています。
この点で、海外のセキュリティ動向や最新の攻撃手法に精通した外国人エンジニアは大きなアドバンテージを持ちます。
求められるセキュリティスキルと資格
セキュリティ分野では専門資格を持つ人材の価値が特に高く、国際認定資格を持つエンジニアは、年収1000万円以上のポジションも多数あります。
また、金融機関、重要インフラ、大手IT企業など、幅広い業種でセキュリティ専門家の需要があり、長期的なキャリアパスも描きやすい分野と言えるでしょう。
日本企業のDXを推進するクラウド技術者
経済産業省が主導するDX(デジタルトランスフォーメーション)推進により、日本企業のクラウド移行が加速しています。
しかし、クラウド技術に精通した人材は圧倒的に不足しており、特にAWS、Azure、GCPなどの主要プラットフォームの専門家は引く手あまたの状況です。
多くの日本企業はクラウド活用において後発組であり、グローバルでの成功事例や先進的なクラウドアーキテクチャの知見を持つ外国人エンジニアは非常に価値の高い存在となっています。
クラウド技術者に求められるスキル
- クラウドプラットフォーム(AWS、Azure、GCP)
- インフラストラクチャコード化(IaC)(Terraform、CloudFormation)
- コンテナ技術(Docker、Kubernetes)
- CI/CD(Jenkins、GitHub Actions、GitLab CI)
- マイクロサービスアーキテクチャ
- クラウドネイティブ開発
この分野の魅力は、グローバルな技術スタンダードが通用することと、日本語環境よりも英語環境での業務が多い点です。
AWS認定ソリューションアーキテクトやGoogle Cloud認定エンジニアなどの国際的な資格を持つエンジニアは、年収800万円〜というレベルも可能です。
DXの推進は今後10年以上続くと予測されているため、長期的なキャリアパスを描きやすい分野と言えるでしょう。
言語の壁を超えやすいモバイルアプリケーション開発者
モバイルアプリケーション開発は、外国人エンジニアにとって言語の壁を比較的低く参入できる分野です。
開発言語やフレームワークが国際的に標準化されており、コードの可読性が高いため、チーム内でのコミュニケーションが比較的容易となっています。
また、ユーザーインターフェースの設計やユーザー体験の創出においては視覚的な要素が重要であり、言語を超えた共通理解が生まれやすい特徴があります。
モバイルアプリ開発者に求められるスキル
- iOS開発(Swift、SwiftUI)
- Android開発(Kotlin、Jetpack Compose)
- クロスプラットフォーム開発(React Native、Flutter、Xamarin)
- バックエンド連携(RESTful API、GraphQL)
- UI/UXデザインの基本知識
- アプリストア最適化(ASO)の知識 など
特に注目すべきは、日本企業がグローバル市場への展開を視野に入れたアプリ開発を強化している点です。
このような国際的なプロジェクトでは、外国人エンジニアの持つ母国市場の知識や国際的な感覚が大きな価値となります。
モバイルアプリ開発者の年収は経験や専門性にもよりますが、中堅〜シニアレベルで万550〜800万円程度、特にリードエンジニアやアーキテクトレベルでは1000万円を超えるケースも珍しくありません。
製造大国日本で重宝される組み込みシステム開発者
日本は世界有数の製造大国として、自動車、産業機器、家電製品など多様な分野で高度な組み込みシステムを活用しています。
IoT(Internet of Things)の普及により、組み込みソフトウェア開発者の需要はさらに高まっており、専門知識を持つエンジニアは非常に重宝されています。
特に、自動車業界では電気自動車(EV)やコネクテッドカーの開発が加速しており、組み込みソフトウェアの重要性が飛躍的に高まっています。
同時に国内の組み込みシステム開発者は高齢化が進んでおり、若手外国人エンジニアの需要が急増しています。
組み込みシステム開発者に求められるスキル
- プログラミング言語(C/C++、組み込みC)
- リアルタイムOS(RTOS)の知識
- マイクロコントローラーの理解(ARM、PIC、Arduinoなど)
- 低レベルハードウェア制御の経験
- 組み込みLinuxの知識
- IoTプロトコル(MQTT、CoAP、OPC UAなど)
組み込みシステム開発は、日本の「モノづくり」の伝統と現代テクノロジーが交差する領域であり、長期的な雇用安定性が高い分野です。
年収水準は600万円〜900万円程度が一般的ですが、自動車や産業機器などの高度なシステム開発経験を持つエンジニアは、さらに高い報酬を得ることも可能です。
5.外国人エンジニアの日本での成功事例とキャリアパス

日本で活躍する外国人エンジニアのキャリアには、様々な道筋が存在します。
大手企業でのキャリア構築、スタートアップでの活躍、そしてフリーランスとしての独立など、それぞれに特徴とメリットがあります。実際の成功事例を通じて、自分に適したキャリアパスを見つける参考にしてください。
大手IT企業でリーダーシップを発揮する外国人エンジニア
日本の大手IT企業では、グローバル展開の加速やイノベーション推進のため、外国人エンジニアをリーダーシップポジションに登用する動きが活発化しています。
成功を収めている外国人リーダーは、技術的な専門性はもちろん、日本企業の文化を理解した上でグローバルなベストプラクティスを導入する能力を持ち合わせています。
リーダーたちが共通して持つ特徴は、日本文化への深い理解と敬意を持ちながらもグローバルな視点を失わない、言語の壁へのコミュニケーション戦略を持つ、専門分野での卓越した技術力と知識を持つ、日本でのキャリア構築に長期的なコミットメントを示すといった点です。
大手企業でのキャリアパスとしては、通常、専門職から始まり、チームリーダーなどを経て、最終的に執行役員やCTOといった経営層へと進むことも可能です。
ただし日本企業での昇進には、一般的に一定レベルの日本語能力(特に対外的なコミュニケーションが必要なポジション)、社内政治や意思決定プロセスへの理解、ビジネス慣行の習得、長期的な信頼関係の構築といった点が重要となります。
スタートアップ企業で活躍する外国人CTOの共通点
日本のスタートアップエコシステムでは、外国人CTOやテクニカルリーダーの存在感が急速に高まっています。
彼らは最先端技術へのアクセスや国際的な開発手法の導入、グローバル展開の促進など、日本のスタートアップの急成長に不可欠な要素をもたらしています。
スタートアップでCTOポジションを目指す場合、以下のような道筋が考えられる
1.日本のスタートアップや外資系テック企業でシニアエンジニアとしての経験を積む
2.技術的な専門性と実績を構築し、日本のスタートアップコミュニティで存在感を高める
3.スタートアップの初期段階から参画し、技術戦略の立案と実装を主導する
4.自らスタートアップを共同創業するか、成長段階のスタートアップにCTOとして招かれる
スタートアップでの働き方は、大企業と比べて意思決定が迅速で、英語中心の環境も多く、外国人エンジニアが活躍しやすい傾向があります。
また、ストックオプションなどを通じた高い経済的リターンの可能性もあります。
フリーランスとして高単価案件を獲得する戦略
フリーランスは、特に専門性の高い外国人エンジニアにとって魅力的なキャリアオプションです。
日本では高度なスキルを持つフリーランスエンジニアの需要が高く、特に外国人エンジニアならではの強みを活かすことで、高単価案件を獲得することが可能です。
高単価案件獲得のための戦略としては、
- 特定の技術領域での深い専門性を確立する(AI、クラウド、セキュリティなど)
- 日本企業のニーズが高く人材が少ない分野に特化する
- 英語と日本語のバイリンガル能力を活かした架け橋的な役割を担う
- ポートフォリオやGitHubなどで実績を可視化する
- 技術ブログなどを通じて専門家としてのブランディングを行う
- 信頼できるエージェントやネットワークを構築する
といった方法が有効です。
フリーランスとして働く場合、専門エージェントを活用することも重要な戦略です。言語面でのサポートも提供しており、外国人エンジニアにとって案件獲得の障壁を下げることができます。
フリーランスは高い自由度と収入が魅力ですが、ビザの問題や契約の不安定さなど、クリアすべき課題もあります。
そのため、いくつかのクライアントと長期的な信頼関係を構築することや、法人化の検討することも有効な選択肢となるでしょう。
6.日本のIT企業文化に適応するためのポイント

日本のIT企業で成功するためには、技術スキルだけでなく、日本独自の企業文化を理解し適応することが非常に重要です。
文化的な違いを把握し、効果的に対応するためのポイントを理解することで、スムーズな職場適応と長期的な成功につながります。
「和」を重んじる職場環境での立ち回り方
日本企業文化の中核にある「和」(調和)の概念は、外国人エンジニアにとって最初は理解しづらい要素かもしれません。
しかし、この概念を理解し尊重することが、日本企業での成功の鍵となります。「和」は単に「意見の一致」ではなく、組織全体の調和と円滑な人間関係を重視する姿勢を意味します。
「和」を意識した立ち回り方のポイント
- 意見を述べる前に「皆さんはどう思いますか?」と他者の意見を聞く姿勢を示す
- 直接的な反対よりも「別の視点から考えると…」といった表現を使う
- 個人の成果よりもチーム全体の成功に貢献する姿勢を見せる
- 問題提起だけでなく解決策も同時に提案する
- 公の場での上司やシニアメンバーへの批判を避ける
- 重要な決定前に関係者への「根回し」(事前相談)を行う
- 社内イベントなどの非公式な交流の場に参加する など
日本特有の企業文化を理解するためのリソース
日本の企業文化に適応するためには、様々なリソースを活用することが効果的です。特に外国人エンジニア向けに、以下のような学習リソースが役立ちます。
日本企業文化学習リソースとしては、書籍、オンラインコース、YouTube、ポッドキャスト、政府/NPOサポートなどが挙げられます。
- 効果的なポイント
実践的な経験と学びを組み合わせる。例えば、メンターシッププログラムの利用や外国人コミュニティの活用など。
英語環境で働ける日本企業の特徴
日本語に不安がある場合でも、近年は英語環境で働ける日本企業が増えています。
そうした企業には、以下のような特徴があります。
英語環境の日本企業の特徴 | ・公式な企業言語として英語を採用 ・国際的な経営陣や多国籍なチーム構成 ・社内文書やミーティングが基本的に英語 ・採用情報が日英バイリンガルまたは英語のみで提供されている ・英語でのコミュニケーションを明示的に評価する人事制度 ・海外拠点との頻繁な交流や国際プロジェクトへの参加機会 ・ダイバーシティ&インクルージョンを重視する企業方針 など |
特に外資系テック企業の日本オフィス、グローバル展開するスタートアップ企業、国際的なゲーム開発スタジオ、外国資本が入っているベンチャー企業、グローバルな研究開発施設を持つ大手企業といった業界・企業タイプは、英語環境での就業機会が多い傾向にあります。
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以下の記事では、日本企業の労働文化について、解説しています。
7.日本で働くための具体的なステップと準備

日本での就職を実現するためには、効果的な準備と戦略的なアプローチが不可欠です。
求人情報の探し方、転職エージェントの活用法、評価される資格の取得、そして日本語レベルに応じた市場アプローチなど、具体的なステップを理解し実践することで、日本でのキャリアをスムーズにスタートさせることができます。
海外から応募可能な日本企業の採用情報と応募のコツ
日本のIT企業への海外からの応募は、近年オンライン採用の普及により格段に容易になりました。
以下の方法で、海外在住のまま日本企業の採用情報にアクセスし、応募することが可能です。
またグローバル採用に積極的な日本企業は、自社のキャリアサイトに英語ページを設けていることが多く、直接応募も可能です。
また、日本のIT業界では、GitHubのコントリビューションや技術ブログを見て企業からスカウトされるケースも増えています。
海外から日本企業に応募する際の重要なポイント
- 日本向けの履歴書フォーマット(「職務経歴書」)にも対応できると好印象
- タイムゾーンを考慮したミーティング設定の柔軟性をアピール
- 日本企業特有の採用プロセス(複数回の面接、適性検査など)への理解と準備
- 日本での就労に対する本気度と長期的なコミットメントを示す
- 日本文化や日本企業への関心を具体的にアピール など
外国人に開かれた転職エージェントと活用法
転職エージェントの活用は、特に海外から日本の求人市場にアクセスする際に非常に効果的です。
外国人エンジニア向けに特化したエージェントを利用することで、言語サポート、ビザ手続き、文化的な違いの説明など、総合的なサポートを受けることができます。
エージェントを効果的に活用するためのコツ
- 複数のエージェントに同時に登録し、より多くの求人情報にアクセスする
- 自分の希望(業界、職種、給与、勤務地など)を明確に伝える
- 日本語レベルや技術スキルを正直に伝え、適切なマッチングを促す
- 紹介された求人に対するフィードバックを丁寧に返す
- ビザサポートの詳細について早い段階で確認する
など
また、エージェントによって得意とする業界や企業規模が異なるため、自分のキャリア目標に合ったエージェントを選ぶことも重要です。
8.日本のリモートワーク動向と外国人エンジニアの機会

コロナ禍を経て、日本企業のリモートワークへの姿勢は大きく変化しました。
これは、国外から日本企業のプロジェクトに参加したい外国人エンジニアにとって、新たな機会の窓を開いています。
最新のリモートワーク事情と、それに関連する法的・実務的な知識を得ることで、より柔軟なキャリア選択が可能になります。
コロナ後も続く日本企業のリモートワーク体制
コロナ禍は日本企業の働き方に大きな変革をもたらしました。
従来の対面文化が強かった日本企業も、パンデミックを機にリモートワークを導入せざるを得なくなり、その結果、多くの企業では新しい働き方が定着しつつあります。
特に、IT業界ではこの傾向が顕著です。日本の大手IT企業の多くは、パンデミック後もリモートワーク制度を継続・拡充しています。
ただし、日本企業のリモートワーク導入状況には、業種や企業規模による差があります。
多くの企業では完全リモートではなく「ハイブリッドワーク」が主流となっています。これは週に2〜3日程度のオフィス出勤と、残りの日のリモートワークを組み合わせるモデルです。
しかし、成果物が明確な職種では完全リモートを許可する企業も増えており、外国人エンジニアにとって大きなチャンスとなっています。
国外からでも参加できる日本のIT企業とプロジェクト
日本企業の中には、国外在住の外国人エンジニアを積極的に採用する動きも出てきています。
国外エンジニアの採用に積極的な企業タイプとしては、
- グローバル展開を進めるスタートアップ
- 英語を公用語とする企業
- 国際的なプロダクト開発を行う企業
- グローバルな開発チームを持つ大手IT企業
- オープンソースプロジェクトを推進する企業
- グローバルな顧客基盤を持つSaaS企業
が挙げられます。
企業で行っている工夫…時差を考慮した柔軟な勤務体制を採用していることが多い(例:アジア圏であれば2〜3時間程度の時差は許容範囲としコアタイムを設定してミーティングを行う)など
国外からの参加に特に適したプロジェクト
- 自社プロダクトの国際展開(現地化・ローカライズ)
- グローバル市場向けの新規サービス開発
- オープンソースプロジェクトへの貢献
- モバイルアプリケーション開発
- AI・機械学習関連の研究開発
- クラウドインフラの構築・運用 など
越境リモートワークの税金と法的考慮点
国外から日本企業のプロジェクトに参加する場合、税務や法的側面での理解が不可欠です。
これらの知識は、安定した長期的な関係を構築するために重要な要素となります。
税務上の考慮点 | ・基本原則(所得税は「居住地国」での課税が原則) ・二重課税の回避、 ・源泉徴収 ・納税義務 ・消費税(国際的なサービス提供の消費税の扱いは複雑で国によって異なる)など |
これらの税務問題を簡素化するために、多くの外国人エンジニアは以下のような方法を選択しています:
1.業務委託契約を結び、自国で個人事業主または法人として活動する
2.国際的なペイロールサービスを利用する(Remote.comなど)
3.専門の税務アドバイザーに相談する
日本企業とのリモートワークは、日本での就労経験を積みながら、自国の生活を維持できるという理想的な選択肢となる可能性があります。
将来的に日本への移住を考えている場合は、まずリモートワークから始めて、関係構築や日本語学習を進めるという段階的アプローチも効果的でしょう。
9.日本のソフトウェアエンジニア不足は外国人材にとって大きなチャンス

日本のIT人材不足は深刻化する一方ですが、これは外国人エンジニアにとって大きなチャンスです。
専門性の高いスキルと日本文化への適応力を持ち合わせることで、安定した高収入と充実したキャリアを実現できます。
技術トレンドへの適応と日本語能力の向上を並行して進め、長期的視点でキャリアを構築していくことが、日本市場で成功する鍵となるでしょう。