日本でのキャリアアップを目指す外国籍人材にとって、転職は重要な選択肢の1つです。しかし、ビザ手続きや日本特有の企業文化、書類選考など、乗り越えるべき課題は多いでしょう。
この記事では、自己分析から転職活動、条件交渉まで、外国籍人材が日本で成功するための具体的なプランとプラクティカルなノウハウをくわしく解説します。
- 外国籍人材が日本でキャリアアップするための具体的な戦略と手順について
- 在留資格の種類と転職時のビザ手続きの流れについて
- 日本企業で評価される書類作成と面接対策のポイントについて
1.日本におけるキャリアアップの全体像

キャリアアップとは、スキルや資格を身に付けて、自分の市場価値を上げることです。
キャリアアップが意味するもの
キャリアアップには、現在の職場で昇進・昇給を目指す方法もあれば、転職によってより良い環境に移る選択もあります。
いずれにしても、転職そのものをゴールとするのではなく、「日本でどう成長していきたいか」を明確にすることが大切です。
たとえば、昇給・昇格、専門性の強化、資格取得など、目指す方向性は人それぞれです。
まずは自分の希望するキャリアアップの形を考え、それに向けたゴールを設定しましょう。
「日本で長く働きたい」という希望がある場合
資格取得が効果的です。取得した資格によっては、長期的なビザの取得や更新制限のないビザにつながる可能性もあります。
明確な目標を持つことで、キャリアアップに向けたモチベーションも高まります。
IT業界の昇進スピードと年収レンジ
IT業界では、担当する職種やスキルレベルによって年収に大きな幅があります。厚生労働省の調査によると、企画立案やプロジェクト管理に携わる人の年収中央値は750万〜900万円程度です。
システムの設計・構築では500万〜700万円、運用・保守でも500万〜850万円と、比較的高い水準にあります。
さらに、管理職クラスに昇進すると、職種によっては年収800万〜1,000万円以上になるケースもあります。
また、IT業界では、特に20代後半から30代にかけて、新年度に昇格するケースが多い傾向にあります。
新年度は昇給・昇格のタイミングであることが多いため、それに向けてスキルを磨いておくことが大切です。
参考:厚生労働省:IT・デジタル人材の労働市場に関する研究調査事業
外国籍エンジニア特有のハードルとチャンス
外国籍人材にとって、日本での転職は就労ビザ・言語・日本特有の企業文化が壁になります。
しかし、外国籍が有利になる点もあります。たとえば、多様性採用枠や英語案件です。また、外資系企業なら、社内の公用語が英語の企業もあります。その場合、英語ができれば転職に有利です。
ただし、クライアント対応や日本人メンバーと円滑なコミュニケーションをとるためには、基本的な日本語や日本のビジネスマナーを身に付けておくことが必要です。
外国籍エンジニアならではの強み
外国籍エンジニアは、自身のバックグラウンドや価値観を活かして、日本企業に新しい視点をもたらすことができます。
こうした視点は、企業のイノベーションやダイバーシティ推進に貢献できるため、採用面でも評価されるポイントです。
そのほか、海外展開や外国籍人材採用の場面で、外国籍ならではの知見や語学力を活かして活躍できる機会もあります。
2.自己分析とキャリアゴール設定

キャリアゴールとは、ITエンジニアとして「どんな仕事をしたいか」「どんな働き方をしたいか」という将来像のことです。
目指すゴールを明確にすることで、転職時はもちろん、日々のスキルアップやキャリア選択の方向性が定まり、迷いなく行動できるようになります。
そのためには、まず自己分析を行い、自分に合ったキャリアパスを見つけることが重要です。
スキルの確認と市場価値の診断方法
まずは自分の経験やスキルを再確認し、現在の市場価値を把握しましょう。
たとえば、経験したプロジェクト・扱える技術・役割などを時系列で整理し、どの程度のエンジニアレベルに当てはまるか確認します。
日本ではエンジニアレベルが7段階に分かれており、それぞれ平均的な年収レンジがあります。自身のレベルを知ることで、現状の立ち位置と目指すべき方向性が見えてきます。
自分のスキルや市場価値を正しく把握することは、今後のキャリア選択や学習方針を決めるうえでの土台になります。
参考:IPA 情報処理推進機構:スキル標準 厚生労働省:IT・デジタル人材の労働市場に関する研究
3年後・5年後のキャリアマップ
3年後・5年後の将来像をイメージし、そこに向けたゴールを設定することで、日々の行動指針が明確になります。
エンジニアのキャリアパスの種類
- スペシャリスト
- プロジェクトマネージャー
- ITコンサルタント
- フルスタックエンジニア
- フリーランスエンジニアなど
自分の適性や興味に合った方向性を見極めることが重要です。
たとえば経験が浅い段階では、3年後に市場価値を高めることを目標にし、使用言語を増やす・専門性を深めるといった具体的なステップを踏んでいきましょう。
また、5年後にマネジメント職を目指すなら、業務の中でリーダー経験を積み、マネジメントスキルを習得する計画を立てることが効果的です。
キャリアギャップを埋める学習計画
日々の業務にキャリアギャップを感じる場合は、ITエンジニアとして持っておきたい資格や、日本語スキルなどの学習計画を立てましょう。
ITスキルなどが学べるUdemy、資格勉強、業務内での学習を組み合わせ、週10時間くらいの勉強を積み重ねれば、無理なく効率的な学習が可能です。
3.在留資格と法的要件を整理

外国籍の方が日本で働くには、在留資格を満たす必要があります。転職活動をするときには、自分が在留資格の要件を満たしているか確認しましょう。
ITエンジニアが使える主要在留資格
外国籍のITエンジニアが使える在留資格は、「技術・人文知識・国際業務」または「高度専門職1号」「高度専門職2号」です。
「技術・人文知識・国際業務」
「技術・人文知識・国際業務」のうち「技術」にエンジニアビザが含まれます。エンジニアビザの在留資格は5年、3年、1年または3カ月です。
取得要件(以下のいずれか)
- 大学などで業務に関する科目を履修していること
- 実務経験が10年以上あること
「高度専門職」
「高度専門職」は、専門的な知識を持つ外国籍人材受け入れを促進するために設けられた資格で、他の就労資格よりも要件が緩いことが特徴です。
そのほか、年収2,000万円以上などの要件を満たす方は特別高度人材制度での在留資格があります。
高度専門職1号
高度専門職1号は、学歴・ 職歴・年収等をポイント制とし、合計ポイントが70ポイント以上の人材に与えられる在留資格です。
高度専門職1号の在留資格は5年で更新制です。高度専門職1号は、複数の在留活動ができることや、要件を満たすと永住許可要件の対象となるなど、複数の優遇措置があります。
高度専門職2号
高度専門職2号は、「高度専門職1号」か、高度外国人材の「特定活動」での在留資格で3年以上日本に在留しているなどの要件を満たす方です。
高度専門職1号での優遇措置のほか、在留期間が無期限になるなどの優遇措置があります。
参考:出入国在留管理庁:技術・人文知識・国際業務 :高度専門職 :特別高度人材制度
ビザ変更/転職手続きのタイムライン
転職する際は、以下の順番で手続きを行います。
- 所属機関に変更があった場合は、その日から14日以内に、本人が出入国在留管理庁に「所属(契約)機関に関する届出」を提出する必要があります。
- ITエンジニアから別企業のITエンジニアとして転職する場合、在留資格は変わりません。在留期限が3カ月以上残っている場合には、住んでいる地域の地方出入国在留管理官署に就労資格証明書交付申請をして「就労資格証明書」を取得しましょう。
- 新しい雇用先と契約を結び、雇用契約書を取得します。これは就労資格証明書の申請時や在留期間更新の際に、必要書類として提出します。
参考:出入国在留管理庁:所属機関等に関する届出 :就労資格証明書交付申請 :在留期間更新許可申請
キャリアアップ助成金など行政支援制度
「キャリアアップ助成金」とは、企業が非正規雇用の労働者を正社員として登用する際に活用できる支援制度です。
企業が申請する制度ですが、求職者として制度の存在を知っておくと安心です。
申請の手順
正社員化に関する就業規則がない場合は策定し、就業規則などに沿って企業が非正規労働者を正社員にします。
申請の条件
正社員に登用してから6カ月以上継続して給与を支払っている必要があります。また、登用前より賃金が3%以上アップしていることも条件です。
助成金を申請するタイミング
6カ月賃金を支給した日の翌日から2カ月以内です。もらえる助成金の額は、会社の規模など条件によって異なります。
キャリアアップ助成金の申請先は、電子申請か、企業のある地域の都道府県労働局です。
4.スキルアップのためのプラン

ITエンジニアとしてキャリアアップするには、資格取得や日本語能力の向上、日本の企業文化への理解、レジュメ強化などのスキルアップが効果的です。
技術トレンド別おすすめ資格
クラウド系、ネットワークに関する資格を取得すると、自分の市場価値が上がります。おすすめは以下の資格です。
- CompTIA Security+
- CCNA(Cisco)
- Azure Administrator Associate
- AWS SAA
- Google Cloud 認定資格 Associate Cloud Engineer(中級) Professional Cloud Architect(上級)
日本語×ビジネスマナー短期習得法
日本企業で働き、スキルアップするためには、日本のビジネスマナーや職場の文化を知っておくことも重要です。
たとえば日本の職場で重要視されるのは「ホウレンソウ」(報告・連絡・相談)や、上司とよい関係を保つこと、チームワークを大切にすることです。
また、日本の企業では、クライアントと日常的に名刺交換を行います。ロールプレイで名刺交換に慣れておきましょう。
日本語の基準は、企業にもよりますがJLPTで N2またはN1を取得し、最低限の敬語が使えるレベルにしておきましょう。
OSS・コミュニティ参加でレジュメ強化
OSS(オープンソース・ソフトウェア)への貢献履歴や、勉強会・カンファレンスでの登壇実績は、履歴書や職務経歴書の内容を強化し、選考通過率の向上につながります。
前職での経歴に加え、OSS活動の実績も評価対象となるため、積極的に取り組むのがおすすめです。業務外のオープンな環境で活動することで、エンジニアとしての積極性や成長意欲をアピールできます。
OSS活動は実務経験にはなりませんが、第三者からの評価や業務外での実績が得られるため、転職活動では自己PRとして使えます。
また、ITエンジニアたちが集まるコミュニティにも積極的に参加しましょう。コミュニティはサイトやコワーキングスペースでの開催などさまざまな形態があります。
コミュニティへの参加は、ITエンジニアとしての情報収集や人脈作り、スキル向上に役立ちます。
5.転職市場の動きと求人の探し方

外国籍のITエンジニアが転職活動をする際、いくつかの方法を同時に行うと、より多くの求人に出会いやすくなります。
海外IT人材に強い転職エージェント活用術
転職活動を有利に進めたいなら、海外IT人材に特化したエージェントの力を借りましょう。
エージェントを選ぶときの注意ポイント
- 登録者数と新規流入 … 登録エンジニア数と、日々新しく登録する人数
- スキルレベル…登録者のプログラミング言語、技術や日本語能力
- マッチング…自分が求める条件と合う企業を紹介してくれるか
- ビザサポート…就労ビザのサポート体制があるか
- 選考サポート…書類の書き方、技術試験、面接、ビジネスマナー指導のサポートがあるか
- 入社後のフォロー…定着支援があるか
- コンサルタントの質…ITエンジニアの知識や外国籍人材採用の経験、バイリンガルなど
- 求人の量
ジョブボード・SNS・ハッカソンで求人発掘
企業が外国籍エンジニアと出会う手段として、外国籍人材特化型の求人サイトへの掲載や、技術系イベント・SNSを活用するケースもあります。
たとえば、ハッカソンのようなイベントでは、エンジニアがチームを組んで開発に取り組み、その成果を発表します。これをきっかけに企業と求職者がコミュニケーションをとり、採用につながることも少なくありません。
また、WantedlyやLinkedIn、TECH PLAYなどのSNS・ジョブボードを活用することで、求職者側も自分に合った求人を探しやすく、企業も幅広い人材にアプローチしやすくなります。
非公開求人を見るには、転職エージェントや人材紹介会社に登録する方法がおすすめです。
一般には出回らない案件を紹介してもらえるほか、面接対策やビザ取得支援などのサポートを受けられる点も大きなメリットです。
現職を生かした社内公募・リファラル
外国籍のエンジニアが転職を考える際、今の会社でキャリアを広げる「社内公募」制度を活用する手もあります。
これは、別部署のポジションに社内から応募できる仕組みで、日本企業でも導入例が増えています。
また「リファラル採用」は、社員が知人・友人など自社に合いそうな人材を紹介する採用手法で、外国籍人材が活躍している企業では、似たようなバックグラウンドを持つ人を紹介するケースも多く見られます。
どちらも一般の転職活動よりも選考ハードルが低く、安心感を持って挑戦しやすいのがメリットです。
6.書類&面接対策 ― 日本企業が見るポイント

日本でエンジニアが転職するには、書類選考・技術テスト・面接の3つで評価される方法が一般的です。書類の書き方や面接での回答を工夫して、他の求職者に差をつけましょう。
日本語履歴書と職務経歴書の書き分け
日本の転職活動では、日本語で履歴書と職務経歴書を提出するのが一般的です。フォーマットは、厚生労働省や転職サイトなどでダウンロードできます。
履歴書は、自分の基本情報や経歴などを書く書類です。職務経歴書には、職務経歴の詳細、資格やスキル、自己PR、志望動機、日本語能力などを書きます。
なお、英文レジュメは職務に関することだけ書き、顔写真、生年月日、性別などの情報や、退職理由などは書きません。日本語での履歴書と職務経歴書との違いに注意しましょう。
STAR手法で成果を語る面接回答例
STAR手法とは、面接などで、経験などを状況 (Situation)→課題(Task)→行動(Action)→結果(Results)の順番で回答する方法です。
STAR手法の例
- 状況:納期が迫っているのに、進捗が予定より遅れていました。
- 課題:納期に間に合うよう、現在の作業方法を改善する必要がありました。
- 行動:毎日チーム内の進捗を確認し、遅れているメンバーへはチームでサポートしました。
- 結果:納期に間に合い、クライアントの発注どおりのクオリティも保てました。
リモート面接で差をつけるテクニカルデモ
リモート面接では、プログラミングスキルを実演する「テクニカルデモ」が行われるケースがあります。これはライブコーディングやコードリーディング、問題解決の思考過程を説明する形式などさまざまです。
特に差が付きやすいのは面接中にコードリーディングを実演する場合です。コードリーディングには、既存のコードを読み解きながらロジックを説明するスキルが求められます。
初見コードに戸惑わないためには、日頃から練習しておくのが効果的です。
オンライン学習プラットフォームのUdemyでは、コードリーディングの講座も受講できます。コードリーディングに時間がかかる方は、受講して基礎から学び直すのも方法のひとつです。
また、デモの場では話し方や伝え方、画面共有やツール操作のスムーズさも見られています。本番を想定して、友人と模擬面接をするのもおすすめです。
7.オファー比較と条件交渉

ITエンジニアとして企業からオファーが来たときには、主に2つの条件をじっくり検討しましょう。
年収テーブルの見方と相場
年収テーブルとは、社員の等級や役職に応じた報酬の上限・下限をまとめた表のことです。
月給の基準を示す「給与テーブル」や「給与レンジ」などもあり、企業ごとの報酬体系を把握するうえで役立ちます。
求人票では公開されないことも多いですが、オファー面談などで提示される場合は、内容をしっかり確認しましょう。相場を踏まえて交渉する材料にもなります。
バックロード報酬(ストックオプション等)
ストックオプションなど、入社後に将来的な利益を見込んで付与される報酬を「バックロード報酬」と呼びます。
スタートアップ企業ではこうした報酬形態が用いられることがありますが、企業の成長や上場が前提となるため、慎重に判断する必要があります。
とくに、上場前の企業でストックオプションを付与される場合は、将来の評価額や行使条件、税制面について確認しておくと安心です。現時点での生活費とバランスを取りながら、モチベーション維持につながるかを見極めましょう。
企業カルチャーフィットの見極め
企業文化が自分に合っているかどうか(カルチャーフィット)は、長く働くうえで非常に重要なポイントです。
たとえば、定期的な1on1面談を実施している企業では、個人のキャリア目標と会社の方針をすり合わせる機会が充実しています。
また、メンター制度が整っていると、入社後のサポート体制も期待できます。
カルチャーフィットは求職者側だけに求められるものではありません。企業側が外国籍社員の文化や働き方を理解し、受け入れる姿勢があるかどうかも、ぜひチェックしておきましょう。
企業の評判をチェックする
口コミサイトなどのコミュニティも活用しましょう。社員や元社員のリアルな声をもとに、自分に適した企業かどうかを判断できます。
8.日本でのキャリアアップ方法を知り外国籍エンジニアとして活躍する

日本でキャリアアップを目指す外国籍のITエンジニアにとって必要なのは、目先の転職だけではなく、将来を見据えた戦略的な行動です。
スキルや経験を高めることはもちろん、日本企業で評価される働き方や文化への理解も重要です。
転職エージェントの活用や、社内公募・リファラルといった多様な選択肢を柔軟に取り入れ、自分に合ったキャリアパスを描きましょう。
日本でのキャリアアップには、自らの強みを活かしつつ、企業との相性や成長環境を見極める力が欠かせません。